学習通信080527
◎けいこと暴力は違います……

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窓から

相撲界は暴力根絶を

 大相撲夏場所は、大関の琴欧洲が初優勝を決め、大いに盛り上がりました。欧州出身力士の幕内優勝は、史上初めてです。この快挙達成に水を差すつもりはありませんが、相撲界で、またも暴力ざたが表面化しました。

 先週の「窓」欄では、この問題を取り上げた投稿「角界の暴力根絶を望む」(伏見区・男性)を掲載しました。今回は、日本相撲協会の理事でもある元横綱の親方が、夏場所中の朝げいこで序二段力士を竹力で殴打、全治一週間のけがを負わせました。さらに、現役の十両力士が一月下旬に序ノロ力士の頭を調理器具でたたき、けがを負わせていました。

 相撲協会では、昨年六月に起きた時津風部屋の力士急死事件を受け、再発防止を誓ったばかりです。けいこと暴力は違います。伏見区の男性は「いかなる理由があろうとも、暴力を振るってはいけない」と強調されています。相撲界は、こうした声に耳を傾けるべきだと思います。
(「京都」20080527)

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スポーツ最前線

「力士暴行死」再発させない角界に
 武田祐一(「しんぶん赤旗」スポーツ部)

 大相撲夏場所が五月一一日から始まります。この場所が終わると、時津風部屋の力士暴行死事件からまもなく一年です。

▼角界に大きな影

 昨年六月、序ノロ力士だった時太山こと、斎藤俊さん(当時一七歳)は、元親方(山本順一容疑者)と兄弟子から、けいこに名を借りた暴力を受け、死亡しました。日本相撲協会の責任が問われる事態となり、事件は、いまだに相撲界に大きな影を落としています。

 これを契機に大相撲界の暴力体質が次々と明らかになりました。弟弟子をいじめた兄弟子に体罰を加えた親方が告発されるなど相撲部屋ではしつけ≠ノ暴力は当たり前になっている実態が浮き彫りになりました。背景には相撲部屋の封建的な厳しい上下関係があります。親方や兄弟子、番付が上位の者に対し服従する古いしきたりです。力士を志望しながら、辞めていく若者も少なくありません。

 昨年九月、元親方が傷害致死容疑で立件される方向が報じられましたが、協会の対応は警察の捜査任せで後手に回り、世間の批判が集中しました。北の湖理事長が、監督官庁の文部科学省から厳しい指導を受け、ようやく重い腰をあげ、外部委員を入れた再発防止検討委員会を立ち上げました。

▼五三部屋の実態調査

 この事件では親方の資質も問われました。親方になるには現役時代の地位や実績と年寄株の取得が必要です。しかし、指導者になるための基準や検定はなく、研修制度もありません。部屋の運営も指導もすべて親方任せで、部屋によってまちまちです。そうした状況を踏まえて、五三ある相撲部屋の実態をつかむために、再発防止検討委員会はアンケート調査と視察を行いました。

 部屋へのアンケートでは、「いじめを目撃した」が一七人、「しつけと体罰は似ている」が七人、「道具を使って指導したことがある」が四九人など、部屋での指導や力士の生活の実態が垣間見えました。しかし、実際に各部屋のアンケートを見た外部委員で漫画家の、やくみつる氏によると、ていねいに回答している人と、空欄が多い人があり、取り組む姿勢にも温度差があるといいます。この調査結果だけでは部屋の実態を正しくつかむことはできないでしょう。

 さらに視察では検討委の親方、外部識者が分担して各部屋をまわり、力士への指導や生活の様子について各部屋の親方と話し合いました。親方やおかみさんなどに再発防止への問題意識を持ってもらうことでは一定の成果がありました。このなかで親方たちに「けいこと今回の事件の暴力はまったく異質なもので、相いれない」との認識が広がりました。若い親方からは親方同士でも世代間で考え方が違うため「世代別勉強会を開いたらどうか」という提案も出されました。

 しかし、親方から話を聞いただけで力士の置かれている状況が分かるのかどうかは疑問です。再発防止の具体的な制度改革やルールづくりはこれからです。五月場所前には全部屋の視察を終え、その結果を踏まえて、今後の改革の方向性が出される見通しで再発防止への取り組みのテンポは決して速いとはいえません。

▼改革の姿勢しめせ

 協会側は一貫して、この問題への認識が甘く、対応の遅れが目立ちます。昨年一一月場所の協会あいさつで北の湖理事長は「一連の件に関しまして皆様にはご心配をおかけしました」とのべましたが、その後も含め、本場所のあいさつでファンに対する説明や謝罪の言葉はありません。

 昨年は朝青龍のサッカー騒動でも揺れました。しかし朝青龍の復帰とともに一月場所、三月場所が盛況になると、協会は問題がすべて解決したかのような緊張感のない対応をとりはじめました。事件に対する世間の批判があるなかで一月に行われた役員改選でも、この問題を何ら論議せず、無投票で北の湖理事長らが再選されました。

 また、二月には元親方と現役力士が逮捕・起訴されました。事態が進んでも協会の対応は遅かったため、文科省からは協会理事に外部識者を入れるべきだと迫られました。協会側は「前向きに検討する」としましたが、対応は先伸ばし。この点では「文科省にいわれたからやる」というのではなく、あくまでも協会の自主的な判断で外部識者の知恵を借りることも検討するべきでしょう。

 暴力一掃への決意をしっかり固めて取り組まなければ、第二の事件を引き起こしかねません。協会は外部からいわれてやるのではなく、自覚的に再発防止の姿勢をきちんと国民に示すべきです。そうしてこそ国民の信頼回復と、真の人気復活につながるのではないでしょうか。(たけだ・ゆういち)
(「前衛 08年6月号」日本共産党中央委員会 p180-181)

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《潮流》

なにか後ろめたいことがあるとき、人はよく耳あたりのよい言葉でいいわけをします。「お国のためだ」といって、若者を死地に赴かせた戦時中の為政者など、その最たる例でしょう

▼体罰を合理化するときにもちいる「教育の一環」もそのひとつです。新弟子暴行死をうけて暴力の一掃にとりくんでいる大相撲で、またも若手力士への殴打が発覚しました。中華鍋で頭を何度もたたいたという兄弟子は「普段から生活態度がよくなく、教育の一環だった」と話したといいます

▼竹刀を使った親方は「行き過ぎた」と反省しながら、昔は体罰が当たり前のようにあって、自分たちもそれで育ったかのように正当性を主張しました。「やっちゃいけないことをしたから、良くしてやろうと思ってやっている」

▼「教育」の名の下にふるわれる暴力。それは相撲にかぎらないでしょう。以前、話を聞いた野球強豪校の監督は「熱い心で、子どもに気づいてほしい一心でたたく」と愛のムチ論を説いていました

▼いまだに体罰は、教室にも家庭のなかにも根強い。いったん、しみついた暴力肯定の考え方を変えるのは難事業です。相撲協会も親方から力土まで全員の意識改革をはかっていく必要がありそうです

▼しかし、いくら相手のことを思った行為だといっても、たたかれた側の心には大きな傷がのこります。学校教育法でも体罰をはっきりと戒めています。教育とは体罰とは──。本質をみないでいいつくろっても、物事は前向きに解決していきません。
(「赤旗」20080520)

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◎「なにか後ろめたいことがあるとき、人はよく耳あたりのよい言葉でいいわけを」すると。