学習通信080530
◎若者よ、ネットカフェを出て船に乗れ……

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本家「ジェイン・オースティンの〜」より熱い!?
週間朝日腐女子部≠フ
「蟹工船」読書会 @かに道楽
 売り上げは例年の5倍!

お酒を飲みつつ本と恋の話で盛り上がる。そんな女子だけの読書会がひそかにブームだ。映画「ジェイン・オースティンの読書会」に負けじと、本誌女子部も「蟹工船」を課題図書に初の読書会を開催した。場所はなぜか新宿の「かに道楽」。最初はカニに夢中だった部員も、お酒が入るうちに話はどんどん白熟して……。

A 最初に「カニコウセンが話題になってる」って聞いたときは、字面が思い浮かばなくて、カニの密漁船だっけ? とか思っちゃった。(笑い)

B 私なんて「カニ光線」っ、ていうビームかと思いました。ビームが出るほど活きがいい、みたいな。

C どんなビームよ、それ? 二人とも大喜利じゃないんだからさ。(笑い)

D これって、ジェネレーションギャップなのかな。歴史の教科書とか国語の資料集で覚えなかった? プロレタリア文学の代表作ってことで。

A さすが、Dさん。やっぱり知的ですね。

D いや、私も今回初めて読んだんだけど。(笑い)

C 今すっごい売れてるんでしょー。

B 銀座では、どの書店に行っても売り切れでしたよ。

D 今年に入って、例年の5倍近い勢いで売れているらしい。私の行った新宿の大型書店では、逆に文庫本コーナーにバーッと平積みになってたよ。

A 新聞とか雑誌でもよく取り上げられてますもんね。

D 売れだしたのは、今年1月9日付の毎日新聞での、作家の高橋源一郎さんと雨
宮処凛さんの対談がきっかけなんだよね。

C (新聞の切り抜きを見て)貧困にあえぐフリーターにとっては、昭和初期のプロレタリア文学が現実に……か。

D ワーキングプアとか貧困に苦しむ若者の間では、共感を持って読まれているってことらしい。

A 今の若者が買って読んでいるとは思えないけどなあ。読んで本当に共感してるのかな?

C 同感。私自身はまったく共感っていうか、感情移入できなかった。

B それはCさんがセレブな生活しているからじゃないですか?(笑い)

C まあ、うちの冷蔵庫には、ハロッズのフォアグラとキャビアしか入ってないけど(笑い)。そうじゃなくて、今の若者は教育の機会も与えられているでしょ。ここに描かれている人たちとは環境が全然違う!

A まあ、「糞壺」のような船室で寝起きして、凶暴な現場監督にしょっちゆう「タタき殺すぞ!」「焼き入れるぞ!」って暴力をふるわれるわけですから。

C しかも、労働者同士で夜這いはするわ、お風呂に入れなくて虱はわくわ……。コレ読んでカニ缶が食べたくなくなった。

B ていうが、ここ、かに道楽なんですけど。(笑い)

A 実際、浅川監督の暴力で殺されちゃう人も出てきますもんね。少なくとも、今の若者はそういうことはないでしょう。

B 私、高校生のとき、飲料メーカーの工場で、ひたすらペットボトルにオマケをつけるバイトをしてたせいか、共感するワーキングプアの気持ち、わかるな。

全員 え?!そうなの?

B クーラーもない掘っ立て小屋みたいなところで、延々オマケをつけるんです。立って作業するんで、次々バイトが倒れていく。

C Bちゃん、けっこうプロレタリアだったんだ。

B すっごい空気の悪い地下工場で、携帯電話の部品にひたすらシールを貼る仕事もしましたよ。1分間に100台の携帯電話がベルトにのって流れてくる。

C 時給はいくらだったの? 

B 日給8円、って謳ってたけど、交通費も出ないし、物損保険料とかいって、いろいろ引かれるから、手取りは6千円ちょっと。派遣元はあのF社だったんですけどね。

A その物損保険料って、不透明な天引きじゃないか、って問題になってたやつじゃないですか!

B まさにそれですよ(笑
い)。で、日給を派遣会社にもらいに行くと、「ここ、冷房が利きすぎちやって寒いんですよ〜」とか言いながら社員が出てくる。

A こっちは暑いところで倒れそうな思いをしてるのにね。

B そう。それで「今日は担当者がいないのでお金は払えません」とか平気で言われた。かなりムカつきましたよ。(笑い)

主人公不在でも
若者にウケる?

D 私も若者が共感するのわかるな。時代背景は違うけど、「搾取する側」と「搾取される側」が分かれているという構図は変わらなくて、働いても働いても、貧しさから抜け出せないっていう閉塞感は今も同じだと思う。

C うーん……。

D 私もフリーで働くようになって、私の年収が同じ職場で働く年配の正社員のボーナスと同じくらいだと知ったときは、複雑な気持ちだったし。

A 私ね、この小説に感情移入できないのは、内容うんぬん以前に、登場人物全員、キャラが立ってないからだと思うんですよ。

D ああ。誰が主人公なのかわからない、っていうか、主人公がいないもんね。

C うん。正直、これまで読んだことのないタイプの小説だった。

B 確かに、主人公のいない小説って、なかなか共感しづらいからなあ。漫画版「蟹工船」(イースト・プレス刊)では、ちゃんと主人公をつくってますよ。けっこう格好いい。(笑い)

D ケータイ小説にしても、いま若者ウケするモノって、必ず主人公を際立たせて読者が感情移入しやすくつくってるもんね。まあ、登場人物のほとんどは名前もないし。あえてそうしたんだろうけど。

B そのなかで、唯一、強烈なキャラクターなのが、 労働者を虐待する浅川監督ですよね。棍棒(こんぼう)を振り回し
ながら「畜生! タタきのめしてやる」って労働者に暴力をふるう。

C 「土方の棒頭(ぼうがしら)のように頑丈な休」で。

D いつもお酒で顔を赤くしてる。(笑い)

A 現代は、こんなに単純じゃないと思うんですよ。この小説のなかで、労働者を使う経営者はとんでもなく悪く描かれてるけど、今って、中小企業とかは労働者を使う経営者も苦しいわけじゃないですか?

D そうね。

A 私、ここに来る前は別の出版社の正社員だったんですけど。正社員だから恵まれていたかっていうと、そんなことなかった。

B そうだよね。コンビニとか外食チェーンで、休日返上で働いても、残業代ももらえない「名ばかり店長」もいっぱいいる。

D 怒りの矛先は一カ所じゃない。

A それに共産主義が成功しなかったことはソ連や他の国がすでに証明してるわけですよね? なんかそう考えるとさめざめした気持ちになっちやって……。

C しかも、こんな小説を書く小林多喜二自身は、どんだけ貧しい生活をしていたのかと恩ったら、そうでもなかったんでしょ。

A そうそう(笑い)。生い立ちはかなり貧しかったみたいですけど、高校を出て北海道拓殖銀行の銀行員になってる。

団結したいなら
ネットカフエ出よ

B エリートじやん!

D けっこういいお給料をもらってたらしいし、勤めの傍ら、小説を執筆してるしねえ。

B 私、この本で初めて知る言葉多かったな。カニをとりに行く「川崎船」とか。

C ロシア人が「露助」って蔑称で呼ばれてたり。

D 今との比較でいうと、ずっと虐待されてた労働者がみんなで団結してストライキをしよう!って立ち上がるところがあるじゃない?

A 暴風で川崎船が「カムサツカ」の岸に打ち上げられたとき、助けてくれたロシア人にストライキのことを教えてもらうんですよね。

B 少し日本語の話せる人が出てきて「働かない人がいばって、働く人が貧乏になる。これダメ。プロレタリア、みんなで団結する、負けない」とかアドバイスされる。

A 「プロレタリアー番偉い。ロシア恐ろしくない、働く人ばかり」って。わかりやすいプロパガンダですよね。(笑い)

D 貧困に悩む若い読者は、みんなが団結して立ち向かう姿がうらやましい、って思うとも聞いたよ。

A そうなんですか? でも、ネットカフエに集う若者は、そこで友達をつくるわけでもなく、個室にこもってゲームとかしてるでしょ。他人と連帯したがっているようには思えないけど。

D でも、実際に派遣社員とかアルバイトでも、個人で入れる労働組合が増えてきてない?

B そうですねえ。私も取材で、ニートとかフリーターの若者に話を聞くことがあるんですけど、「自分の社会的立場を向上させるために頑張る!」みたいな人は会ったことないなあ。

C 私ね、この小説にほとんど共感できなかったんだけど、蟹工船の労働者たちが団結する気持ちだけはよくわかったの。

B なんで?

C 学生のころ、洋上セミナーに参加して、一カ月間、ずーっと同じメンバーと船の上で生活したことがあるんだけど、いま考えると気持ち悪いくらい仲良くなったもん。

全員 へえー。

C まずニュースがいっさい入ってこないから、話題は船上で起こったことだけでしょ。妙な連帯感が生まれるのよ。そのセミナーで出会って、付き合ったり、結婚したりしたカップルがいっぱいいたよ。

B 団結したいのなら「若者よ、ネットカフェを出て船に乗れ」ってことですか。

A でも、船酔いでカニみたいに泡を噴いちやったりして。(笑い)
(「週刊朝日 2008.6.6」朝日新聞出版 p153-155)
編集後記

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 編集部の若手女性スタッフを集めた「週刊朝日女子部」をつくりました。記念すべき最初の企画は、いま若い人たちの間でブームだという「蟹工船』の読書会です。「かにこうせん」と聞いて「カニ光線」を思い浮かべるなど、いきなり期待どおりの反応でしたが、はたしてこれをそのまま載せていいものか? 編集部の見識を疑われるのではないか、と迷った末の掲載でした。まあ、いまどきの若者の一例とお楽しみいただければさいわいです。しかし、カニを食べながらの読書会って、ちょっと違うんじやないか。本誌・山ロー臣
(「週刊朝日 2008.6.6」朝日新聞出版 p168)

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若者の連帯めざして
「超左翼マガジン ロスジェネ」創刊

「私たちは『蟹工船』で働いていた」
団結呼びかける視点鮮やか

 若者の二人に一人が非正規雇用というなか、三十代の論客たちによって『超左翼マガジン ロスジェネ』(かもがわ出版発売、税別一三〇〇円)がこのほど創刊されました。書店発売前からメディアが取りあげて増刷が決まるなど、出版界でも注目を集めています。

現場の声を

 紀伊国屋書店新宿本店では発売直後の先週、ビジネス・社会フロアの週間売り上げ五位を記録しました。担当の大飯宏一さんは「非常に好調です。若い人が多く買っていく」といいます。

 タイトルは「ロストジェネレーション(失われた世代)」の略。バブル崩壊後の就職超氷河期に社会に出た、二十代後半から三十代半ばをさします。この世代は不況と非正規雇用拡大の影響を一番まともに受けました。

 巻頭の「ロスジェネ宣言」は、「私たちは依然として『蟹工船』で働いていた」「全国のロスジェネ諸君! 今こそ団結せよ」と呼びかけます。

 編集長で首都圏青年ユニオンなどで活動してきた浅尾大輔さん(三八)は「青年の労働相談に乗ってきて、なぜ若者がこんなに苦しめられなければならないのかと強い怒りを覚えた。この現場の声をすくい上げる雑誌を作りたかった」と言います。

 「マルクスが『鉄鎖以外失うものは何もない』と言ったように、フリーターや派遣社員は労働力しか売るものがない労働者です。厳しい状況の中で不満を政治にぶつけるのは必然です」

右と左対談

 創刊号の特集は「右と左は手を結べるか」。「希望は戦争」と主張するフリーターの赤木智弘さんと浅尾さんが対談。右翼活動から労働運動に転身した雨宮処凛さんの手記など、足元から同世代の連帯の可能性を探っています。

 精神科医の香山り力さんは創刊号を読んで「自分のことから他者のこと、社会のことへ。視点の鮮やかな変換を小気味よくながめています。いい子ぶらず、おもむくまま、自由に、いかがわしく進んでください」とエールを送ります。

 朝日新聞はいち早く大型コラムで「ロスジェネ宣言『優しさの連帯』つくれるか」(十九日付)と紹介。韓国の「東亜日報」二十三日付も「二千万ロスジェネ、団結せよ」という紙面半分を占める記事を載せ、若者の「蟹工船」ブームと『口スジェネ』を取りあげました。

左翼の関心

 今年になって日雇い派遣問題をとりあげた日本共産党の志位委員長の国会質問がネットで話題を呼び、「蟹工船」が大増刷になるなど、若者の左翼に対する関心はこれまでにないものがあります。共同通信の四月の世論調査では日本共産党の支持率も全世代平均4・1%に対して、三十代男性で11%、二十代女性で9・4%とロスジェネ世代でかつてなく高まっています。

 若者のこうした動きを象徴するような『ロスジェネ』創刊。これらが合流して政治を変え、厳しい労働環境を変える力になることを期待したいと思います。(北村隆志)
(「赤旗」20080530)

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ロスジエネ宣言
──いま「われわれ」の言葉はリアルだろうか?

 一連なりの妖怪が──「ロストジェネレーション」という名の妖怪が、日本中を歩き回っている。

 就職超氷河期(1990年代という「失われた十年」)に社会へと送り出された20代後半から30代半ばの私たちは、いまだ名づけられ得ぬ存在として日々働き暮らし死んでいきつつある……、その数 20、000、000人。

 「ワーキングブア」「フリーター」「ひきこもり」「ニート」「うつ病世代」「貧乏くじ世代」「負け組」「下流」「ロストジェネレーション」……。世間が私たちをさまざまなレッテルで一括りにする。しかし、私たちは、「レッテル貼り」によって目の前にある問題や矛盾が隠されたり、未解決のまま先送りされることをのぞまない。

 そして、私たちが抱える苦しみと悲しみを、「自己責任」という言葉で片づけたくない。これまで感情を押し殺して黙って生きてきたけれど、いまになってやっと、白分たちが「怒ってもいいのだ!」と気づいたから。

 「組合には入りません」。日雇派遣。男。29歳。6畳1間のアパートに、ぜんそく持ちの母親と二人暮らし。仕事は製パン工場のライン作業。流れる3色パンの群れ。夕刻、剥き出しの7640円。「でも、僕は僕なりにたたかわせてもらいます」

 「あんた、派遣辞めろだなんて、無責任なこと言わないで」。無職ときどき日雇派遣。女。31歳。メンヘル気味。収入の大半は親の仕送リ。クビになった会社は5社。面接を受けた回数その10倍。「だって、絵を描いて生きるには、お金が、カネがいるんだからねッ」

 「会社にデモかけてやっからな」。派遣。女。27歳。年収240万円。仕事は「○A業務」「ファイリング」という名のお茶くみコンパ二オン。「専務、セクハラもたいがいにせーよ」

 私たち左翼は自間する──いま「われわれ」の言葉はリアルだろうか?

 左翼にとって「失われた10年」は、「雌伏10年」と言いかえよう。

 雌伏──将来に活躍する日を期しながら、他人の支配に服して堪えていること。

 現代の労働運動は、「反貧困」という言葉を掲げて幅広い社会改革運動へと変貌しつつある。たった一人のワーキングプアが大企業の無法に挑み、勝利しただけでなく、労働法制や社会保障制度そのものの変革へと進みつつある。それは「権利のための闘争」であり、同時に、「生存をかけた闘争」である。そして−。

 絶滅したと思われていたプロレタリア文学がゾンビのようによみがえる。私たちは依然として「蟹工船」で働いていた。

 娯楽はあふれている。マンガ・ゲーム・ギャンブル・インターネット。しかし、気づけばそこから一歩も脱出できない、密閉された奴隷船。

 仲間のなかには、匿名掲示板に延々と見知らぬ反日分子≠ヨの罵言雑言を書き連ねるネット右翼がいる。自前の拡声器で「生きさせろ!」と怒鳴りまくるゴスロリ姉貴もいれば、多額の借金を抱えながら障害を持った仲間の生活を支えるヘルパーもいる。国家権力のありようを生活の言葉で語る学者は、その変換作業のなかに革命の可能性を、オタクコミュニストは「マンガを読む」のではなく「マンガに読まれる」という受動性から社会をつかもうとする。その傍では、自らの愛を証明するために存在するすべてを叩きまくると決意した者と、「リアルな言葉」を求めて革命闘争に身を投じようとする者とが、来たるべき文学について終わりのない対話を統けてぃる。

 そうして、土砂降りの雨に向かって、二人の娘を抱え絵筆一つで社会に喧嘩を売るアクション母ちゃんは、両手をひらいて叫ぶのだ、

 「ロストジェネレーション=失われた世代」? ざけんじやねえ! 「失われた」んじやねえ。「われわれ」が生きていくために必要なsometningを、誰かが「奪ってきた」んだろ。

 全国のロスジェネ諸君! 今こそ団結せよ!

 仲間に呼びかける者を尻目に、「どうせ無駄だよ……」と鼻で笑う者たちがいる。その暗がりに眼を凝らせば、疲れ果てて寝がえりをうつことさえ出来ず、「この苦行のような人生よ、早く終わってくれッ」と、昨日と同じ今日を告げる夜明けにうんざりしながら、このうぞうむぞうのロスジェネのるつぼをじっと見つめる、無数の眼差しが光っている。

 私たち左翼が改めて思い知るのは、仲間たちが放つリアルな言葉が時代を牽引していくということ。そして、リアルな言葉は、いつも、私たちが日々働き暮らしている現実のなかから生まれるということ。

 いま「ロスジェネ」は、ここに、左翼と現実とをつなぐ空間を設定する。
 この空間から紡ぎ出された言葉が、あなたの心に少しでも届くことになれば、うれしい。

 ささやくような小さな声が、しだいに大きなうねりになることを願う。
(「ロスジェネ」創刊号 かもがわ出版 p4-7)

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◎「これらが合流して政治を変え、厳しい労働環境を変える力になることを期待したい」と。