学習通信080611
◎若者たちの誇りをズタズタにするような社会……

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現代人という生物
長谷川眞理子さんに聞く

情報化に追いつかぬ進化
母親負担重く小子化

協力関係を築くことで
人類は繁栄した

 ダーウィンの進化論発表から今年で百五十年。我々は他の生物とともに進化の最前線に立つが、現代人とはどんな生き物なのか。進化生物学の視点から現在の様々な問題を分析する総合研究大学院大学教授の長谷川眞理子さんに人類の特徴や繁栄の理由、今後の進化について尋ねてみた。

 「人間だけを特殊な生き物と考えるのは人間中心主義かもしれません。生物はみんなそれぞれに特殊だからです。ただ、ここまで地球環境を改変し、他の生物を絶滅に追い込み、自分たちに都合のいい物を大量に作り出す力を持っているのは人間だけ。地球全体に大きな影響力を持っているという点で、確かに人類は特殊な生き物でしょう」

 なぜ人類が繁栄することができたのか。その答えを見つけるため、大学院生だった一九八〇年代初め、タンザニアで二年半、チンパンジーの観察に明け暮れた。

 「チンパンジーは言葉を教えれば単語を覚えるなど知能はかなり高い。人類との遺伝子の違いはわずか数%です。でも決定的な違いは協力関係を築けないこと。一致団結して何かするということがない。チンパンジーが理解できるのは私とあなた、私と物という二者関係で、私とあなたと物という三者関係の理解は難しい。人類はこれが分かるから共通の目的のため複数の者が協力して様々なことを成し遂げた。文明を築くことができたのです」

 「もう一つ人類の大きな特徴は愛情が深い動物であるということです。人類は他の動物に比べて脳が大きく、複雑なことができる。でも、それだけに子育ては大変で、時間と労力がかかる。愛情がなければとてもできない。大変な子育てをするのだから父親と母親のきずなも深くなる。他の動物と比べ、人類は大人同土の愛情も深いのです」

少子化は共同繁殖体制
の崩壊が原因

 生物学の視点で人問を見た時、ユニークな存在なのが「おばあさん」だ。

 「動物のメスのほとんどは繁殖期問が終了すると、まもなく死んでしまう。でも人間は閉経後も長生きする。なぜ人間だけにおばあさんが存在するのか。これを説明する有力な仮説が、祖母が自分の経験を生かして娘の子育てに協力することで、人類の繁殖力が高まったという説です」

 実際、「人類はチンパンジーなど類人猿に比べ繁殖力が高い」という。おばあさんの存在が人類の繁栄をもたらしたともいえる。そのおばあさんが子育てにあまりかかわらなくなったことが少子化の原因なのだろうか。

 「少子化はおばあさんも含め、親族や地域の人がみんなで子どもを育てる『共同繁殖体制』が核家族化で崩れてしまったことが大きい。人類は大昔から共同で子育てをしてきた。狩猟採集時代もそうでした。その代わり、母親も食物採集に出かけた。専業主婦なんて最近のこと。高度成長で会社人間になり、夫が子育てに加わらなくなったのもここ何十年かのことです。今は母親の負担がものすごく大きいのです」

 進化生物学の「生活史戦略」という考え方が少子化を考える上で役に立つという。

 「生活史戦略は生物が自分の時間とエネルギーをどう配分するかの戦略です。現在の自分を維持するために多くのエネルギーを使うと、繁殖に使えるエネルギーは減ります。これを人間の女性に当てはめると、現代は仕事、けいこ事、旅行など自分のために振り向ける魅力的な事柄が山のように増えた。それなのに子育ての負担は大きい。そして、人間の子育ては離乳では終わらない。子育ては大変という不安感を和らげないと少子化は止まらない」

年功序列・終身雇用が
若者の殺人を減らした

 人間のリスク行動研究のため殺人の調査分析もした。

 「年齢、性別で見てもっとも殺人を犯しやすいとされるのは十代後半から二十代の男性です。動物のオスはメスを獲得するため、繁殖の開始直
前に自分の強さを見せないといけない。人間でいうとちょうど二十代前後の時期です。このころ自分の力を示そうとカッカする男性も多い。この時期に殺人が多いのは世界共通の現象で、他の哺乳(ほにゅう)類も繁殖直前に闘争で死ぬケースが多い」

 「でも不思議なことに戦後の日本はその年代の男性の殺人が減っている。なぜなのか。高学歴化が進み、年功序列と終身雇用が広がったことが大きな要因でしょう。高学歴は将来への投資。だから若い時にバカなことをしてはいけない。年功序列と終身雇用で将来が約束されているのだから無謀なことはできないのです。今、終身雇用が崩れ始めているから今後はまた若者の殺人が増えるかもしれません」

 「貝や花など生き物の美しさに引かれ、生物学を志した」という長谷川さん。急速な情報化の進展を心配する。

 「パソコンや携帯端末は子どもの育つ環境を大きく変えた。子どもたちは生身の人間ではなく携帯のチヤットで友達とつながっている。インターネットでは書いたことが瞬時に伝わり、情報がすぐ入手できる。これは人間の生理的な感覚からはズレています」

 人間に限らず動物は環境の変化に合わせて進化してきた。これから人間はどう変わっていくのだろうか。

 「人間の脳は生存するため現在の環境に十分適応できるよう作られています。でも人間は文明を作り、脳の記憶容量には収まらない知識を外部に蓄積してきた。いずれ人問の脳を超えるコンピューターもできるでしょう。人間が自分で作った産物に追いつかなくなっているのです。変化のスピードが速過ぎてそれに対応する生物的進化を起こせない。人類が滅ぶとすれば、自分が作った産物によって滅ぶのでしょう」(編集委員 藤巻秀樹)
(「日経 夕刊」20080529)

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疎外感が生む「確定的殺意」

 何の落ち度もない人たちに無差別に危害を加える事件は、これまでも繰り返し引き起こされている。秋葉原の無差別殺傷事件も、たとえば一九八〇年から翌年にかけて東京で相次いだ「深川通り魔事件」や「新宿バス放火事件」などと構図自体は似ている。

 しかし、八〇年代の両事件が判決で薬物などの影響を指摘されているのと異なり、最近の事件では犯人が社会に対する身勝手な不満や恨みを募らせ、「確定的な殺意」に基づいて犯行に及んでいるケースが目立つ。

 さらに不気味なのは、極めて限られた人々の間ではあるとはいえ、こうした犯罪者を「すごいことをやった人物」として扱い、共感を寄せる雰囲気が存在する点だ。インターネットや携帯電話の普及で、犯人は犯行予告を書き込み、一般の人がそれを「論評する」という異常な現象が普通になりつつある。

 こうした傾向は、二〇〇一年に大阪教育大付属池田小学校で起きた連続児童殺傷事件のころから強まっている。○四年、奈良で女児を誘拐・殺害した男が、東京・埼玉の連続幼女殺害事件(八八〜八九年)こと大阪の事件の犯人の名を挙げ「第二の宮崎勤、宅間守として世間に名前が残ればいい」と供述したことが典型といえる。

 「誰でもよかった」。今回の事件で容疑者が供述しているというこの言葉は、今年三月に茨城県土浦市のJR荒川沖駅前で八人が殺傷された事件や、一九九九年の東京・池袋の通り魔殺傷事件でも逮捕された男が口にしている。

 確定的な殺意を抱いて犯行を計画し、不特定多数の集まる場所で無差別に凶器を振るうような犯罪は防げない。司法の分野では厳罰化で対処しようとする流れがあるが、

 「死刑になりたかった」という動機による犯罪が目立ちつつある現状をみると、むしろ逆効果にしかならないというむなしさを感じる。

 今回の事件の容疑者は派遣会社に登録し、自動車部品工場で働いていた。事件との関係は不明だが、正規と非正規に雇用形態が分かれる職場環境やワーキングプア(働く貧困層)の間題など、社会の変化への不適合が最近の犯罪の背景にあるとの指摘は少なくない。

 家庭、地域、職場とあらゆる場所で人間関係が希薄化している。「自分だけが理不尽な扱いを受けている」という疎外感を抱きやすい状況になっているという現実を、社会全体で受け止めなくてはならない。(編集委員 坂口祐一)
(「日経」20080609)

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志位委員長、ラジオで生トーク
『蟹工船』から、国会対応まで

 日本共産党の志位和夫委員長は十日、TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」にゲスト出演し、次々とコメントしました。

 「(共産党の)時代がきましたね。そういう予感がしませんか」―パーソナリティーの荒川さんは冒頭、こう切り出し、小林多喜二の『蟹工船』ブームにふれました。

 志位氏は『蟹工船』が読まれている理由をのべ、人間を使い捨てにする奴隷的な労働が現代的な残酷さをもって復活するなかで「この現状を何とかしたい、連帯して活路を見いだしたいという若者の気持ちが、あの本に向かわせているのだと思います」と応じました。

 雇用問題での国会質問などを紹介すると、荒川さんは「ネット上でも、志位さんは、われわれ若い者の怒りというか疎外感をそっと引き上げてくれる人、という位置付けになっているみたいですね」と語りました。

秋葉原事件
 番組は、その日のニュースのうち市民の関心が高い十項目を紹介するコーナーに。国会での問責決議案をめぐる問題、アメリカ大統領選、投機マネー、いわゆる「居酒屋タクシー」問題など、多彩なニュースに志位氏が縦横にコメントしていきます。

 トップは秋葉原での無差別殺傷事件。番組では「再発防止のために何をすればいいと思うか」リスナーに意見を求めました。

 犯人が派遣で働く若者であったことから、リスナーからは「派遣の規制緩和は大きな問題。雇用が安定しなければ将来への展望は何も描けない」といった意見が寄せられました。

 志位氏は、事件について、「どんな社会的な原因があったとしてもああいう犯行は許されないことはもちろんだが、個人の特殊な問題としてだけ片付けることも許されない。痛ましい事件をくり返さないためにも、その社会的背景を究明する必要があります」とのべました。

 そのうえで、今度の事件が派遣労働とどういう関わりあいがあるかは断定的なことをいまいうべきでないが、若者の労働の全体的な状況としては、一九九九年の派遣労働の原則自由化、二〇〇四年の製造業への解禁が若者の労働の質を決定的に悪くしたと指摘し、「規制を元に戻していく必要がある」と話しました。

いじめ問題
 学校でのいじめ問題をあげたリスナー(三十八歳・女性)も。

 志位氏は、いじめ問題の背景には、国連の機関からも是正を勧告されている過度の競争教育によるストレスがあると指摘。こう話しました。

 「小中学校でずっと競争で順番がつけられ、大きな心の傷になる。社会に出たら弱肉強食で、労働でもモノ扱いされる。若者たちの誇りをズタズタにするような社会全体のしかけを大本から変えることが必要です」

 最後に、後期高齢者医療制度が話題になり、志位氏は「まずは、廃止法案を通すために最大限の努力をすべきです」と力説しました。

 この放送は、インターネットでもTBSラジオ「WEB‐RADIO」の「荒川強啓デイ・キャッチ!」で聴けます。
(「赤旗」20080611)

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◎「年功序列・終身雇用が若者の殺人を減らした」と。