学習通信080626
◎具体化を許さない……

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社説
集団的自衛権
行使容認へ具体論の検討を

 日本の安全保障政策を考え直すうえで、画期的な意義を持つ報告だ。

 有識者による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が、集団的自衛権の行使の容認を提言する報告書を福田首相に提出した。

 米国向けの弾道ミサイルが発射されたり、公海上で米軍艦船が攻撃されたりした際、日本はどう対応すべきなのか。仮に黙って見過ごすようでは、日米同盟の根幹が揺らぎかねない。

 報告書は、いずれの場合も、集団的自衛権の行使を認める必要があるとして、「保有するが、行使できない」とする政府の憲法解釈の変更を求めた。

 国際平和協力活動に参加する自衛隊の武器使用基準は、国際標準に合わせる。任務遂行のための武器使用や、他国の部隊に救援を頼まれた際の「駆け付け警護」に道を開くものだ。

 自衛隊が他国軍を後方支援する際の「武力行使との一体化」という概念も見直す。補給、輸送、医療支援などを他国軍の戦闘との関連の度合いで武力行使に当たるとみなす考え方をやめ、支援の是非は総合的に政策判断する。

 いずれも妥当な提言だ。政府・与党は、憲法解釈変更に向けて具体的な対応を検討すべきだ。

 終戦直後の憲法制定時には、自衛権に様々な制約を加えることに意味があったかも知れない。だが、時代は大きく変化した。

 国際テロや核、ミサイルなど新たな脅威が広がる今、日本の安全保障環境は極めて厳しい。日米同盟をより強固にする必要がある。日本が国際平和協力活動でより大きな役割を果たすことへの国際社会の期待も高まっている。

 報告書は、集団的自衛権行使の“歯止め”にも言及した。行使の範囲や手続きを定める関連法の整備や、国の安全保障に関する基本方針の閣議決定などだ。

 集団的自衛権の行使は、日米同盟の維持に不可欠で、日本の安全保障に資する場合に限定する。戦闘行為が主任務の国際活動に、自衛隊は参加しない。こうした基本方針の具体例も挙げている。

 政府の憲法解釈を変更しても、日本が海外での戦争に参加するわけではない。そうした意思を内外に明示することは大切だ。

 衆参ねじれ国会の下、集団的自衛権行使の関連法整備は簡単ではない。まずは、与党が、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の論議を再開してはどうか。武器使用や一体化論の見直しをめぐる報告書の提言は重要な論点となろう。
(「読売」20080625)

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社説
柳井報告を軽んじるな

 福田康夫首相にとっては受け取りたくない報告書だったのだろう。安倍政権が設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長、柳井俊二元駐米大使)の集団的自衛権の憲法解釈見直しに関する報告書である。

 柳井氏は24日夕刻、首相に報告書を提出した。前日には段取りが決まっていたにもかかわらず、首相官邸は直前まで公表しなかった。テレビに取材され、映像が残るのが嫌だったらしい。

 柳井懇談会は安倍政権の遺産である。集団的自衛権の憲法解釈の見直しには公明党が消極的であるうえ、民主党内には積極論がある半面、小沢一郎代表は反対論者だ。衆参ねじれの現実の政治状況を考えれば、福田首相は無用な波乱要因を避けたいのだろう。

 集団的自衛権は保有するが、その行使は憲法上できないとする歴代政府の解釈は、自衛隊が国際協力活動をする際の制約となっている。

 2000年10月、米大統領選挙の直前に米国の超党派の安全保障専門家がまとめたアーミテージ・ナイ報告は、日本に集団的自衛権の見直しを提言した。01年9月、米同時テロが起き、私たちは集団的自衛権の解釈の変更を前提にした多国籍軍後方支援法の制定を提案した。

 国際的責任だけではない。日本自身の安全保障、さらに北朝鮮のテロ支援国家指定の解除をめぐって日米同盟が揺らぐ予想を考慮に入れればなおさら、柳井報告は安全保障政策論として重要である。

 柳井懇談会は安倍前首相に近い保守派の学者の集まりのように思われがちだが、北岡伸一、田中明彦両東大教授、中西寛京大教授は、福田首相の外交勉強会にも名を連ねる。佐藤謙元防衛次官は防衛省改革に関する有識者会議の委員でもある。

 報告書は、ミサイル防衛の重要性など現在の日本をとりまく国際安全保障情勢を踏まえ、安保法制がどうあるべきか知恵を絞っている。どんな政権であれ、日本の国際的な立場を考えれば、この報告書を金庫に入れたままでは済まされない。

 福田首相が報告書に食わず嫌いであっては困る。それは日本の安全保障にとって困るからだ。
(「日経」20080626)

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主張
安保法制懇報告
派兵恒久法への危険な執念

 安倍晋三首相(当時)が集団的自衛権についての政府の憲法解釈を見直すために設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)が福田康夫首相に報告書を提出しました。予想された通り、憲法九条のもとでは不可能な軍事行動を可能にする解釈改憲の提言です。

 福田首相は憲法解釈の変更には否定的ですが、懇談会がいまになって報告書を提出したのは、解釈改憲の布石を打つと同時に、自民党と公明党が進めている海外派兵恒久法づくりを後押しする狙いもあります。具体化を許さないことが重要です。

改憲派の異常な議論
 安倍前首相が当初めざしたのは、昨年秋までに懇談会の提言を受け、それをテコにして解釈改憲を強行することでした。昨年七月の参議院選挙で自民党が大敗したことで野望は崩れました。諮問した当人がいなくなった以上、懇談会の役割は終えるのが筋です。懇談会が議論を続け、報告書をだしたのは、諮問機関の報告書をテコに、なにがなんでも解釈改憲の筋道をつけるためです。

 柳井座長は、「今までの憲法解釈では、激変する安全保障環境に対応できない」とのべました。安全保障環境とは、アメリカが先制攻撃戦略と一国覇権主義にもとづき、イラクなど世界各地で軍事介入をつよめている事態のことを意味します。このアメリカの軍事戦略に参加するうえで邪魔になる憲法解釈を変えるのが、懇談会の狙いです。解釈改憲先にありきの、対米追随の異常な議論がそれを示しています。

 そもそも懇談会が議論した「四類型」は、いずれも集団的自衛権の行使が前提です。集団的自衛権とは、日本が攻撃もされていないのに、武力を行使してアメリカなど他国を助けることです。日米同盟強化を口実にして集団的自衛権の行使を認めるなど言語道断です。

 たとえば「公海における米艦の防護」では九条のもとでなぜ自衛隊が米艦を守れるのかの法理も示さず、「日米同盟の効果的機能が一層重要」だから「集団的自衛権の行使を認める必要がある」というだけです。「米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃」も、自衛隊が撃ち落とさなければ「日米同盟を根幹から揺るがすことになる」といって、集団的自衛権の行使を認めるというのではあまりにも乱暴です。

 報告書は、他国の部隊・兵員などを守る「かけつけ警護」とそのための武器使用を「憲法で禁止されていない」と言い切っています。自衛隊が米軍の補給車両や兵員などを警護すれば、米軍を狙う勢力と自衛隊が戦闘することにもつながりかねません。憲法のもとで許されるはずはありません。

 「警護」問題は、自民党と公明党が現在進めている海外派兵恒久法づくりのなかでも焦点の一つです。懇談会の報告書が恒久法づくりを後押しすることにもなっています。どこから見ても危険な報告書の具体化を認めるわけにはいきません。

九条守り生かしてこそ
 いま国際社会は、紛争を戦争ではなく平和的・外交的方法で解決するという新しい平和の流れを強めています。報告書は、「国際的安全保障環境の変化」を解釈改憲の口実にしながら、世界の平和の流れと変化を無視しています。報告書は日本を世界から孤立させるだけです。

 憲法九条は、世界の平和の流れと合流して戦争のない世界をつくる原動力です。改憲ではなく九条を守り生かすことこそ、焦眉(しょうび)の課題です。
(「赤旗」20080626)

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読売──「まずは、与党が、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の論議を再開してはどうか」
日経──「どんな政権であれ、日本の国際的な立場を考えれば、この報告書を金庫に入れたままでは済まされない」
赤旗──「報告書は、……世界の平和の流れと変化を無視し……日本を世界から孤立させるだけ」