学習通信080711
◎陰湿ないじめが職場で広がっている……

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広がる職場のいじめ
仕事教えず
無能よばわり
仲間意識なし

 いじめは子どもだけの問題ではない。故意に仕事を教えないなど、陰湿ないじめが職場で広がっている。専門家は「バブル後のリストラや成果主義が社内競争を過熱させ、職場から人間性を奪い去った」と指摘。「裁判外紛争解決手続き(ADR)」で和解を探る取り組みも進む。

リストラ・成果主義、人間性奪う

 企業のメンタルヘルス対策を請け負う揖保ジャパン・ヘルスケアサービス顧問の河野裕子さんに最近、流通大手の課長が悩みを打ち明けた。「会社の悪口になるんですが」と切り出した三十代後半の彼は、外資系の同業他社から移籍して約半年。日本特有の商慣行について助言を求めた部下に協力を拒まれ、孤立した末の相談だった。

 「マニュアルがありますから」「見て覚えてください」「インターネットに出てますよ」。生え抜きの係長に突き放され、移籍前のキャリアを生かすどころか、日常業務すら遅々として進まない。「こんなはずじゃなかった」と痛々しい様子だった。

 このように「仕事を教えてもらえない」と悩む人が、官民、業種を問わず増えているという。「配属直後や派遣社員ら、職場内の足場が弱い人が標的にされる」と河野さん。新人に無能のレッテルを張り、保身を図る意識が浸透。絶え間ないリストラ圧力の下、管理職も部下の面倒をみる余裕はなく、仲間意識などないのが今の職場らしい。

 厚生労働省によると、全国の労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は二〇〇七年度、約二万八千件と、五年で二・四倍に増加。河野さんが所属する日本産業カウンセラー協会の昨年末の調査でも、パワーハラスメントなどのいじめ事例を扱った会員が八割を超えた。子どものいじめと同様、ネットを使うのも最近の傾向という。

 証券準大手の部長は、部下りしき人物が「死ね」「消えろ」「うぜえ」と書き込んだネット掲示板を見て衝撃を受け、出社不能に。応急の配転後も傷心は癒えず、四十代半ばで退社に追い込まれた。カウンセリングを担当した河野さんは 「加害者側にも介入したかったけれど、相談の枠組みでは限界があった」と残念そうに話す。

和解探る取り組みも

 そんな現状に一石を投じようと、同協会は今秋にも、加害者と被害者の調停業務に乗り出す。裁判外紛争解決促進法(ADR法)に基づく第三者機関の認証を法相に申請中だ。

 目指すのは、法律論に終始する司法型ではなく、当事者の思いを重視する対話促進型の調停という。同協会ADRセンター主任の小山一郎さんは「いじめの底流にあるのは、感情レベルのこじれ。実務経験豊かな産業カウンセラーが話し合いをサポートする中で、当事者が自分の考え方や行動を振り返り、自ら解決に動きだすのが理想です」と話している。
(「京都」20080710)

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パワーハラスメント
訴え広がるが……

基準あいまい
職場あたふた

 職権を使ったいじめや嫌がらせである「パワーハラスメント(パワハラ)」が会社の業務に影響を与えるようになってきた。社員の士気と会社の評判を落とさないように企業も対策に乗り出す。ただセクシュアル・ハラスメントと違いパワハラは法的定義がなく、基準もあいまいで対応に頭を痛めている。

指導か嫌がらせか
意識にズレ

 ソフトウエア会社に勤めるA介さん(42)は直属の上司に自分だけ熊視されていると訴える。情報を伝えてもらえず、業務にも支障が出始めた。社長に直訴したが変化はない。「実は社長も上司の態度を容認していた」とA介さん。このままでは事態がうやむやになってしまうと心配する。

相談年々増える

 企業内で主に上司から暴力や暴言、無視されるなどのパワハラ行為を受けて悩む社員は多い。医療相談のティーペック(東京・千代田)は二〇〇四年からパワハラやセクハラの専門相談室を設け、会員企業の社員から相談を受ける。〇七年の相談件数は三百六十七件で「毎年増え続けている」(砂原健市社長)。

 〇七年十月には医薬品販売会社社員の自殺について東京地裁がパワハラとの因果関係を認めて労災とし、今年七月には道路会社社員の自殺は上司のパワハラと関連があるとして松山地裁が賠償命令を出した。パワハラに対する社会の見方は厳しさを増している。

 トップがパワハラ体質で社員が相次ぎ辞める会社もある。東京都にある建設会社のB代さん(26)は入社直後、前任社員の引き継ぎがないまま重要な仕事を任された。社長は「これくらいのことができないのはおかしい。常識がなさすぎる」などとしかり続けた。ニカ月後、重圧に耐えきれずにB代さんは会社を辞めた。

 予防策を模索する企業も目立つ。コスモ石油の人事部労務・人権グループの田中敏夫担当グループ長は全国の事業所を行脚して研修を行い、社員の意見に耳を傾ける。「パワハラに本格的に取り組むようになったのはここ二〜三年のこと」という。

 〇七年、全社で調査したところ「社内でパワハラが起きているのではないか」との回答が四割を占めた。これに驚き、パワハラを研修の重要テーマに据えた。グループ会社を含めて約三千四百人の社員が各地の事業所などでトップと社員同時に研修を受ける。

 ただ、世代間の認識の差は大きい。「特に年長社員の中には先輩社員に怒鳴られながら仕事を覚えた経験を持つ人もおり、『部下に熱心に注文をつけて何が悪いのか』といった反応もある」(田中さん)

 パワハラの現状に詳しい菅谷貴子弁護土は「通常の業務と一部のパワハラ行為が区別しにくく、企業の対策が難しくなっている」とみる。暴力を振るう、達成できそうにないノルマを課すなどの行為は典型的なパワハラだが、一方で「部下の成長を願って強く注意するといった行為が業務上の行為なのかパワハラなのかは、相手によって受け止め方が違う」(菅谷さん)。

若手注意できず

 基準がはっきりしないため、過剰反応も引き起こす。菅谷さんは「新人を注意したいが、パワハラと思われて辞められると困るのでできないと相談してくる管理職がここ二〜三年で増えた」と指摘する。単に禁止事項を増やすだけでは、会社の業務を萎縮させかねないとみる。

 パワハラ回避へ「急がば回れ」と時間をかけ、社員の意識づくりを進める会社もある。凸版印刷はコミュニケーション能力向上などの講座を設け、自主的に受講できる仕組みを整えた。講座や研修で業務への意識を高め、社員の脱パワハラ意識を強めようと狙う。コンプライアンス推進チームリーダーの沢竹正光課長は「マニュアルでパワハラ問題は解決しない。社員の意識向上が結局はパワハラ回避の近道になる」と語る。

 「職場いじめ」(平凡社)の著者で、職場のハラスメント研究所(東京・文京)の金子雅臣所長は「成果主義の導入で組織が変わり、社員の意識とズレが生じ、パワハラを生む土壌をつくっている」と語る。「バワハラ対策に真剣に取り組もうとすれば、上司と部下など社員の関係、職場の雰囲気や組識づくりなど、会社のあり方を根本から問い直す姿勢が必要」とみる。

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●パワハラ上司は4タイプ
 パワハラなどの被害者を支援するクオレ・シー・キューブ(東京・新宿)の岡田康子社長は「職権などのパワーを背景に本来業務の適正な範囲を超えて継続的に人格と尊厳を傷つける言動を行い、働く環境を悪化させたり、雇用不安を与えたりすること」とパワハラを定義する。社員の能力発揮を妨げ、会社の評価を落とす行為でもある。

 職場のハラスメント研究所の金子雅臣所長はパワハラ上司を四つに分ける。@怒鳴るなど威嚇する「自己中心型」A細かく指示する「過干渉型」B自分の上司頼みで責任を回避する「無責任型」C意欲に乏しく部下に負担をかける「事なかれ主義型」がいるという。

 日本産業カウンセラー協会の調査によると、パワハラやいじめが起きた部署には「コミュニケーションが少なかった」「管理職の指導力が欠如」などの特徴があるという。原康長専務理事は「上司から部下だけでなく、同僚同士、部下から上司に対する突き上げなど、多方面でパワハラが生じている」と指摘。「将来的にはセクシュアル・ハラスメントと同様、法律による規制が必要になる」としている。
(「日経」20080710)

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インタビュー●
派遣労働とセクハラ、いじめ

その苦悩に心寄せる運動を

首都圏青年ユニオン書記長・「反貧困たすけあいネットワーク」事務局長 河添 誠さん

 一人でも加盟できる組合「首都圏青年ユニオン」には、派遣・請負など急増している非正規雇用で働く人々からさまざまな相談が寄せられます。その多くは不安定な雇用ゆえに、セクハラ、いじめなど労働者の人間性を否定するような仕打ちを受ける事例が横行しています。

労働現場に横行する無法

 ある派遣社員Aさんは、派遣先の企業で営業の電話かけをするように指示されたのですが、企業から渡されたリストの不備もあり、電話かけの回数が少ないとクレームがついて派遣を打ち切られました。ここまではよくある話です。

 その企業は、派遣会社にたいして損害賠償(約15万円)を求めました。派遣会社は、賠償金の支払いをAさんに要求し、なおかつ賃金も支払わないと主張しました。

 これはそもそも当の派遣会社が「労働者派遣法」を理解していない、としか思えない非常に問題のあるケースです。「労働者派遣法」では人材派遣は次のように定義されています。「派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために従事させること」。つまり、派遣先企業で働いてはいても、身分はあくまでも派遣会社の社員なのです。損害賠償をAさんに支払わせることはおろか、給与の未払いなど言語道断ですし、派遣業務が途中で打ち切られたのなら、Aさんにほかの会社を紹介しなければなりません。

 この派遣会社に「あなたがたのやっていることは違法です」と指摘しても、何をいわれているか理解できないようでした。派遣会社にとっては、お客さまである派遣先の企業の意向が絶対であり、自社の派遣社員はあくまでも使い捨ての労働力であって、彼らを「雇用している」という意識はまったくありません。人を集めて適当に現場に送りこみ、中間搾取──いわゆるピンハネですね──するという戦前の人貸し業≠ニなんら変わらない無法な労働実態がこれほどまでにまん延していることに、怒りを禁じえません。

なぐられてあごが裂けた会社員

 詳細は明らかにできませんが、深刻なセクハラの相談も寄せられており、現在告訴も含めて対応を検討しているケースもあります。パワーハラスメントの相談も寄せられています。ある広告会社の正社員のケースでは、入社早々寝袋を渡され、徹夜状態で仕事をする日々が続くなか、思わず昼間にうつらうつらしていたところあごに激痛がはしりました。三十代の上司になぐられたのですが、あごが裂けて歯と歯茎が露出する重傷を負いました。

 また繁忙期に弁当工場に派遣された労働者が、「仕事がのろい」と古参の社員からなぐられる、仕事を妨害されるなどのいじめで辞めざるを得なかった例もありました。慣れていない仕事をするのですから、仕事が遅いのは当然なのですが、全体の労働条件が悪化しているなか、より条件の悪い人、仕事が遅い人にたいする集中的ないじめがおきやすくなっています。

 ユニオンに相談に訪れる労働者に共通しているのは「人間として扱われていない」という感覚です。

 いわれのないことで罵倒され、安易に解雇されるその悔しさをだれにも受け止めてもらえずに、どんどん追い詰められてしまう。労働者として当然の権利を主張しようとしても、家族や恋人からさえも「あきらめろ」といわれる人も少なくありません。しかしここにくれば「よく声をあげたね」「いっしょにがんばろうよ」と声をかけあう仲間がいます。

 最初に紹介したAさんは、いわれなく解雇され、損害賠償まで請求されたのですから、大変傷ついた状態で私たちの事務所を訪れました。居合わせた組合員たちから「会社のほうがおかしいよ」と声をかけられ、自分の行動が法律的にも理にかなったことなのだ、と確認できたとき、Aさんは「だれにもわかってもらえない」という孤独な感覚から解き放たれたのではないでしょうか。

声をあげれば変えられる

 勇気をだして声をあげることで職場環境を変えることができる状況がうまれてきています。相次ぐ偽装請負の告発や従業員三百三十八人に残業代四千八百万円を支払わせた首都圏美容師ユニオンのケースはマスコミでも大きく取り上げられましたし、先日は残業代の未払いなど悪質な労働基準法違反をおこなっているとして牛丼の「すき家」を刑事告訴しました。

 このほかにも、解雇や社会保険未加入などさまざまな問題を解決してきましたが、私たちの運動の出発点は、権利を阻害された働く者として、まず共感しあうところにあるのではないか、と私はよく思うのです。労働者の悔しさを受け止める。そして問題を解決するために実際に行動する組織。そういう労働組合がいま、求められているのではないでしょうか。

 私はこんなイメージを持っているんですよ。労働者の多くは泥沼のようなところに寝泊まりをしている状態です。私たちは、びちょびちょに濡れた人たちにとりあえず必要なブルーシートを敷いて、お尻が濡れないようにしてあげる。受け止める、というのはそういうことではないかと思うのです。

ワーキングプアの「たすけあい」発足

 昨年暮れに立ち上げた「反貧困たすけあいネットワーク」の互助制度は、低賃金・長時間労働で苦しむワーキングプアがお互いに支えあう制度です。月会費三百円で六ヵ月以上の入会を条件に、病気やケガで働けない人に一日千円、最大十日間で一万円の「たすけあい金」を支給します。生活困窮者には無利子で一万円の「生活たすけあい金」も貸しつけます。当面は必要ないけれど、「今のこんな社会はおかしいじやないか」と考えて、私たちの運動に賛同してくださる方の入会も歓迎します。

 設立のきっかけとなったのは、アルバイトの残業代を支払ってもらえない母子家庭の男子高校生からの相談でした。ユニオンに加入すればアルバイト先と交渉できる、と伝えたところ、組合費をねん出できないといわれました。ユニオンの組合費は、収入のない組合員は月額五百円、月収十万円の組合員は月額千円ですが、アルバイトのお金を家計に入れ、大学進学の資金も貯めている彼にとっては、払いたくても払えないお金だったのです。

 この運動は支えあいであると同時に、失業手当や生活保護など本当に必要とされている支援が届いていない人たちがこれほどいる、という実態を告発し、公的責任を追及するきっかけにもしていきたいと考えています。

 こんな働かされ方はおかしい、と思いはじめている人たちが確実に増えており、手ごたえを感じています。私たちの運動が社会的な正義を体現する、魅力あるものとして映っているのであれば、それは社会を変える大きな流れになってゆくのではないでしょうか。私はそこに希望を感じています。
(「女性のひろば 08年6月号」日本共産党中央委員会 p60-63)

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◎「勇気をだして声をあげることで職場環境を変えることができる状況がうまれてきています」と。