学習通信080722
◎労組が、かっこよく見える……

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「大実験[あの噂!]は本当なのか!?」

検証3
ワーキングプアのバイブル? 『蟹工船』に共感できるか!?

 プロレタリア文学の代表作『蟹工船』。1929年に発表されたこの作品が今、ワーキングプア層の共感を呼んでいるというけど、本当? てなわけで、年収300万円以下の契約・派遣パート、アルバイトの方々に読んでもらった。

 「派遣会社の『高時給』『キャリアアップ支援』などの言葉につられたものの、実際は大違いという現状が蟹工船の労働者とダブった」(28歳・女・派遣)など、皆さん何かしら共感の様子。一方で、「彼らには地獄へ行く覚悟もあったろうが、現代ではいつのまにか地獄に行っちゃってる」との声や「低賃金、劣悪な環境で働く人の多くは、自分から会社に働きかけることに消極的」(27歳・男・派遣)と、蟹工船の労働者のように立ち向かわないことを問題視する声も。もっとも「私は派遣先にも意見するので、途中まで言いなり状態の漁夫たちにイラっとした。(彼らを虐待する)監督、海に突き落としちゃえばいいのに」(33歳・女・派遣)てなツワモノもいたが。

 そして、「小説と比べて自分はまだマシという慰めになる」との意見もあったなか、「漁夫が風呂にも入れず肌が爛(ただ)れる環境は、風呂なし、トイレなしの4畳足らずの古アパートに住む僕と似ている」というのは27歳・アルバイトの男性。さらに「この本に共感した人は本当にワーキングプアか。本を一冊買うくらいなら明日の食費に回すのが本当の貧乏人だから」とはごもっとも。平成のワーキングプアは『蟹工船』を超えた!?
 【結論】それなりに共感する人多し。なかには、現代のほうが悪状況と言う人も。
(「SPA! 2008年7月15日号]

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全国知事会の消費税増税論議

『蟹工船』読む若者 敵に回す
世論を意識、二転三転

 全国の知事が一堂に会した全国知事会議(十七、十八両日、横浜市で開催)では、地方財源をめぐり、消費税率の引き上げ論議が白熱しました。しかし、最終的にまとまった提言では、消費税引き上げではなく、「地方消費税の充実」というあいまいな表現に……。増税への国民の厳しい批判を意識せざるを得ない状況が浮き彫りになりました。



 「財源不足を補てんする基金も年々減少し、二〇一一年度までに枯渇、地方団体の財政運営は完全に破たんする」──。全国知事会の特別委員会は、こんな「破たんシナリオ」を全国会議に提出しました。

 地方財政の圧迫による行政サービスの削減を強調することで、国民に負担増=消費税増税を求めるのが狙いです。

 会議では、この報告を受け、さっそくこんな発言が飛び出しました。「消費税率のアップをあえて踏み込んで訴えるべきだ」(松沢成文神奈川県知事)、「消費税の引き上げを、この時期はっきりいわなければ、知事会の力がないとみなされる」(野呂昭彦三重県知事)。

 しかし、地方財政の悪化をもたらした根本原因は、政府が進めた「三位一体改革」の名による地方交付税の大幅削減にあります。

 地方交付税は〇三年度から〇六年度までに五兆円以上も削減されました。国の財政支出を求めることなしに、住民にばかり負担を求めることは筋が通りません。

 ましてや毎日の生活費に課税する消費税は、社会的弱者ほど負担が強まる最悪の逆立ち税制。地方経済が疲弊するなか、増税が経済に与えるマイナス効果も懸念されています。

 このため、会議でも、「(消費税の)税率アップを国民にどう説明するのか。あえて今、明記する必要はない」(溝口善兵衛島根県知事)、「国民の反発が強い。『蟹工船』を読む若者を敵に回すことになる」(達増拓也岩手県知事)などの慎重論が大勢を占めました。

 結局、消費税増税派の思惑ははずれ、提言をめぐっても表現が二転三転。四度も文言を修正する異例の迷走となったのです。

 しかし、麻生渡知事会長(福岡県知事)は記者会見で、「税制抜本改革のなかで(消費税増税を)必ず取り上げ、方向を出していくことを(政府に)求める」などと強調。消費税増税の執念を捨ててはいませんでした。(佐藤高志)
(「赤旗」20080721)

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学生
労働組合に注目

 日本共産党員作家・小林多喜二の「蟹工船」のブームはなお衰えず、七月最初の週の週間ベストセラー(オリコン調べ)では、文庫部門の三位です。そのなかで、若者の労働組合への意識も変わりつつあるようです。

 東京にある日本大学で、約百五十人の学生に社会政策論を講義する牧野富夫・同大名誉教授は、ここ十年以上毎年、学生に、@労働組合の意義を認めるかA就職したら組合に入るか、という質問をしてきました。

 約八割の学生が労組の意義を認めるけれど、自分も入る気があるのは二割台──この間ほぼ一定した回答でした。ところが今年は、50%を超す学生が自分も労組に入ると答えたのです。

 「びっくりしましたね。昨年の十一月には、アルバイト先で組合を作りたいが、どうすればいいか、と学生が聞きにきました」と牧野さんはいいます。

 「労組が、かっこよく見えるようになったんじゃないでしょうか。教育が競争的になっているなかで、組合に入って団結しようという意識が広がっているのは貴重です」

 今年一月の「蟹工船」エッセーコンテストにネットカフェから応募した狗又ユミカさんは、小林多喜二からの「手紙」には「一人で戦っては駄目だ。労働組合に加入して(なければ組織するなどして)団結して戦え!」と書いてある、と書きました。

 若者の苦難の解決に取り組む労組の献身的な活動が、学生のなかにも、多喜二のメッセージを広げているようです。(西沢亨子)
(「赤旗」20080720)

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議長日記
ガッツ坂ちゃん

翻れ「替天行道」の旗

 北方謙三の長編作「水滸伝」が爆発的な人気を博している。通勤電車の中でも、熱心に文庫本を読んでいる人を何人も見かけるし、全労連の専従者の中にも多数の愛読者がいる。文庫本にして全17巻に及ぶ長編だが、誰もが「読み出したら止まらない」という。私はいま、水滸伝の続編・「楊令伝」に夢中である。

 水滸伝は、中国古典文学の中では三国志や西遊記とともに、日本人に最も多く読まれてきた。原典は、一人の人間が創作した物語ではなく、何百年にわたって語り継がれた民間に伝わる説話を集大成したもので、16世紀の半ば羅貫中という人がまとめたといわれる。原典は読んだことがないが、以前テレビでドラマ化された作品を見た記憶がある。中村敦夫が・林冲(豹子頭)を演じ、西郷輝彦が史進(九紋竜)を演じていたのを覚えている。

 原典の水滸伝は、腐敗した官に見切りをつけた軍人や文官、地方の豪族や僧侶、盗賊や漁師などの108人が、巨大な湖に浮かぶ梁山泊を本拠にして時の朝廷に反乱し、たびたび戦闘で勝利しながらも、最後には滅びていくという長大な物語である。「北方水滸伝」は、原典を大胆に再構築しながら、12世紀の中国・北宋未期に、腐敗した政府を倒そうと、「替天行道」の旗を掲げてたたかいを挑んでいく漢たちの姿を熱く描く。

世直しヘの強い志を胸に、漢たちは地位を捨て、愛する者を失い、さらに自らの命を賭けてたたかい、そして死んでいく。第9回「司馬遼太郎賞」の受賞作品である。

 同志たちから慕われ、梁山泊の統領に推される宋江(及時雨)と晁蓋(托塔天王)、全国を放浪する魯智深(花和尚)と武松(行者)、梁山泊軍総隊長の呼延灼(双鞭)、遊撃隊長の林冲や史進、致死軍紀隊長の公孫勝(入雲竜)、軍師の呉用(智多星)、子牛山にこもる王進、そして続編の主人公となる楊令などが登場するたびに、読者は登場人物の一人ひとりを現存する友人や知人になぞらえて思いを巡らし、圧倒的な迫力に惹き込まれていく。作者自身が述べているように、北方水滸伝はキューバ革命のカストロやゲバラを思い浮かべた革命小説でもある。

 「替天行道」とは「天に替って道を行う」、世直しのことである。ガッツ坂ちゃん議長日記の最終回に、あえて「翻れ、替天行道」とタイトルをつけたのは、「全労連梁山泊」に結集してきた漢たちに、社会変革の旗を掲げてたたかい続けるエールを贈りたいからである。労働戦線再編の中での全労連結成から、まもなく19年になる。結成年の1989年とはどんな年だったか。6月に中国で天安門事件がおき、11月に東西ベルリンの壁が崩壊した。ベルリンの壁に続いて、ポーランド、チェコスロバキア、ルーマニア、そしてソ連、当時「社会主義国」と呼ばれていた国々が次々に崩壊していく。

 政府や財界は何と言ったか。「資本主義が勝利した」「もう社会主義は死滅した」「こんな時代に闘う労働組合とか、階級的ナショナルセンターの発足など、時代遅れも甚だしい」。その大合唱であった。それから19年経って、眼の前にあらわれている世界は、資本主義が勝利したと言えるのだろうか。アメリカ式の資本主義が広がれば広がるほど、世界に格差と貧困、テロと報復戦争、地球環境の破壊が拡大していく。外国為替市場で1日に取引される株や債権、各国通貨などの金融取引が、実態の世界総生産の28倍にのぼり、株価という一枚の紙切れにつけられた値段に世界の経済と国民生活が翻弄される。資本主義は勝利どころか、腐りに腐ってこれ以上腐りようがないところまできている。世界でも日本でも、新自由主義にもとづく市場経済万能論の破綻は、誰の眼にも明らかである。

 資本主義に代る新しい社会システムを探求しようという新しい胎動が世界でおきている。日本でも、書店に小林多喜二の「蟹工船・党生活者」の文庫本が山積みされ、「私たちはいかに蟹工船を読んだか」というエッセイ集も、ベストセラーとなっている。マルクスの著作コーナーを設ける書店も出てきたし、週刊朝日が日本共産党の志位委員長に対するインタビューを編集して、「日本共産党宣言」のタイトルの特集を組んだり、テレビ番組に不破・志位氏が2週連続で登場し、社会主義やマルクスの資本論について語るといったかつてない現象もおきている。

 資本主義社会がこのまま続くのか、それとも新しい社会への動きが起こるのか、まさに、そのことが問われる時代が始まっているのではないか。新自由主義に代わる次の社会が、社会主義であるのかどうかはまだ誰もわからないが、新しい時代が始まりつつある予感がする。だからこそ、労働者や国民の要求と運動が政治を動かすという新しいプロセスが始まっているのである。そんな時代に、労働運動の第一線で活動できるとは、何と幸せなことであろうか。幾多の困難と苦労の中で全労連運動を支えてきた先輩たちのためにも、この新しい情勢を生かした運動を成功させなければならない。これからの労働運動は、そうした大局的な時代認識をもって、運動を組み立てていくことが重要である。

 また今後の労働運動は、2050年に日本の人口が9千万人を割り込み、15歳から64歳までの生産年齢人口が半減する社会への対応が求められる。産業構造の変化は、ユニオンショップ制によって企業に丸抱えされ、会社と一緒になって労働者を管理してきた大企業労組の機能と役割を、次第に失わせていくだろう。企業内主義労働組合に代わって、地域を拠点に、一人ひとりの労働者が自覚的に結集し、運動を進める新しい団結形態が求められていくだろう。そういう時代の流れを見据えて、地域に強固な組織を確立し、砦となる事務所をつくり、専従者を配置し、産別機能と地域運動の機能をしっかり結合してたたかう全労連をつくる必要がある。

 誰が「全労連梁山泊」の宋江で、誰が晁蓋か、林冲は誰で史進は誰か、これからの全労連運動に陽令は現れるのか。労働者の希望に輝く未来のために、「替天行道」の旗を高く掲げてたたかい続ける全労連に、多くの労働者・国民が注目している。
(「全労連 08年8月号」全国労働組合総連合 p46-47)

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◎「企業内主義労働組合に代わって、地域を拠点に、一人ひとりの労働者が自覚的に結集し、運動を進める新しい団結形態が求められていくだろう」と。