学習通信080724
◎すべての項目が一九九〇年代以降、悪化……

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成果主義の弊害指摘
「非正規」増にも疑問

労働経済白書

 厚生労働省は二十二日、二〇〇八年版の労働経済白書を発表した。バブル経済崩壊後、企業が導入した業績・成果主義的な賃金制度の弊害を指摘し、運用などの見直しを求めたほか、パートなどの非正規雇用の増加については、労働者の仕事に対する満足度を低下させるなど問題が多いと分析。多くの日本企業が実施し、業績回復に一役買った人事政策に、白書が疑問を投げかけた形だ。

 これまで政府が進めてきた労働法制の規制緩和の結果、非正規雇用の代表格の派遣労働者が増加しており、こうした政策の検証も求められる。

 白書は、企業が導入した業績・成果重視の賃金制度について、制度を望む社員の仕事への意欲を高めるものの、処遇や賃金に満足できない労働者も多く「必ずしも成功していない」と結論付けた。

 その上で、制度の適用範囲を見直し、労働意欲の向上につながる部門に限定して積極活用するほか、評価基準を明確化するなど制度の運用改善が必要と訴えた。

 また、白書は「仕事のやりがい」や「休暇」「収入」など、仕事に対する人々の満足度が長期的に低下傾向にあると指摘。その原因として、特に正社員として就職できず、パートや派遣など非正規雇用にとどまっている人の不満や不安が高まっているとし、正規雇用の拡大、賃金上昇などを求めた。さらに「二十四時間」といった小売業の長時間営業について、生産性向上を抑え、労働条件を後退させている懸念があるとして、見直しを要請。

 一九九〇年代以降の企業が進めてきた人事政策は、働く人々の「格差拡大」につながった。この問題をめぐっては、政府、与党内で是正の動きが見られ、厚労省は今年の臨時国会に、日雇い派遣の原則禁止を盛り込んだ労働者派違法の改正案提出を目指している。

(解説)
労働経済白書
成果主義弊害指摘
企業の責任問う
人件費抑制、修正を要請

 二〇〇八年版の労働経済白書は、正社員の絞り込みなど一九九〇年代以降、企業が実施した人件費抑制策の修正を求めた。白書が訴える「働きがいのある社会」の実現や格差是正に向け、企業の社会的責任があらためて問われる。

 白書によると、企業がパートなど非正規雇用を増やした理由は「労務コストの削減」が八〜九割を占める。企業はここ数年、新卒採用を活発化させているが、国際競争の激化や人口減による国内市場の縮小懸念など先行きは厳しく「正社員拡大」にどの程度、かじを切れるかは未知数。

 行きすぎた成果主義を見直す動きも広がっているが、賃金や人事評価などをめぐリ従業員の不満は根強く、課題は山積だ。

 格差社会批判の高まりは、産業界の求めに応じ、労働法制の規制緩和を続けてきた政府に方向転換を迫った。白書は、非正規雇用の正社員化支援や最低賃金の引き上げなどで「格差是正」に取り組む政府の意欲を示す。企業の取り組みに加え、格差是正につながる政府の実効性ある対策が求められる。
(「京都 夕刊」20080822)

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非正規増え労働意欲低下
成果主義見直しも求める
労働経済白書

 厚生労働省は二十二日、二〇〇八年版「労働経済の分析(労働経済白書)」を発表し、労働者の満足感が「仕事のやりがい」「雇用の安定」「収入の増加」などで長期的に低下していることを明らかにしました。

 白書は、その要因として、企業が一九九〇年代から人件費の抑制を優先して正社員を減らし、非正規雇用が増大したためだと分析。成果主義賃金の見直しや正社員化への支援を求めました。

 今回の白書は、「働く人の意識と雇用管理の動向の分析」をテーマに、非正規化や成果主義賃金のもとでの労働意欲を分析しています。労働意識を白書で分析するのは初めての試みです。

 白書は、大企業の労働分配率は大きく低下していることを指摘。持続的な経済発展を実現するために、雇用の拡大、賃金の上昇、労働時間の短縮にバランス良く成果を配分することを求めています。

 労働意欲については、非正規雇用化、成果主義賃金によって長期的な満足感の低下があることを指摘。一九九〇年代に企業が人件費の抑制を優先し、若年層の計画的採用や育成の努力を怠ったことで、満足感が低下したと分析し、正規雇用化への支援を求めています。また、成果主義賃金の導入では、正規の中高年層で賃金格差の拡大による意欲の低下があるとのべ、賃金制度の見直しが企業経営の重要な課題だとしています。

 さらに、日本の産業構造について、一九九〇年代までは生産性の高い産業に労働力が集中していたのに、二〇〇〇年代以降は、生産性の低い分野に労働力が集中していることを分析。生産性の高い製造業などで人員削減がすすみ、小売業やサービス業などで非正規雇用が増加することで、産業間の生産性格差が拡大しているとし、製造業などでの雇用拡大が課題だとしています。

(解説)
労働経済白書
大企業支援の非正規・成果主義
政府が失敗認める

 今回の「労働経済白書」は、「仕事のやりがい」「雇用の安定」など労働者の仕事への満足感が、一九八〇年代から長期的に低下し、九〇年代後半以降さらに悪化していることを確認しています。

 満足感が低下した理由を分析して、大企業が人件費削減を優先した新規採用抑制、非正規雇用化や人件費抑制のために導入された成果主義賃金の問題点を指摘し、その見直しを提言しました。

 これまで政府は、派遣労働の原則解禁など労働法制の規制緩和や、大企業のリストラ・再編の後押しなど大企業の成長を労働者の生活よりも優先する政策を「構造改革」の名のもとにすすめてきました。

 白書の分析は、大企業の成長ばかりを優先する政策の失敗を、政府自身が認めたことになります。

 しかし、成果主義賃金は多くの問題が指摘されているにもかかわらず企業による導入は止まっていません。正社員化を求める世論と運動の高まりにもかかわらず、非正規雇用化も進行しているなど、労働政策への市場原理のもちこみは、依然として続いています。

 労働者保護を弱める労働行政をすすめてきた政府の責任があらためて問われます。

 「規制緩和」路線から抜本的に転換し、労働者の生活と権利を守るための労働行政をすすめることが緊急に求められています。(吉川方人)
(「赤旗」20080723)


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日経新聞社説
 活力高める雇用改善は構造改革から

 賃金は上がらない。能力開発の機会が乏しい非正規労働は増える。このままでは働く人たちの意欲は高まらない。事態を抜本的に改善するには、良質な職を生む新しい産業の成長を促す経済の構造改革が急務だ。厚生労働省が22日に発表した2008年版「労働経済白書」は、こうした分析を中心に据え、労働行政の限界を示唆している。

 今春の賃上げ交渉は労働側にとっては期待はずれに終わった。08年3月期決算で上場会社の連結経常利益が6期連続して増益となる中で、しかも福田康夫首相が賃上げを促す異例の発言をしたにもかかわらずだ。新規学卒者への求人は旺盛だが、3人のうち1人を占める非正規労働者の比率は一向に下がらない。

 雇用の質が改善しないうちに、米国のサブプライムローン問題などによって、世界経済の先行きに暗雲が広がり、国内景気も陰り始めた。原料価格の高騰にも直撃され、企業はあらためてコストの抑制に努めざるを得ない。雇用環境は再び悪化する見通しで、保護的な労働行政を求める声が高まってきている。

 しかし労働条件を法的に向上させようとしても対症療法にすぎない。製造業は今後も重要だが、厳しい国際競争に対処するためにコスト削減の手を緩められない。バブル経済の崩壊後、正規労働者を減らして、賃金の安い非正規労働者を増やして生き延びてきた。これまでの景気回復は外需頼みで、労務費を削減した製造業の立ち直りに負っている。

 労働経済白書がいう、製造業の正規雇用の減少と低生産性のサービス業や流通業での雇用拡大は、問題をはらんでいる。働く人たちの満足度を低める1つの要因になっているからだ。とはいえ労働法制の規制緩和による非正規労働の増大や、サービス業などの非製造業での雇用拡大のおかげで、月次の完全失業率が最高でも5%台半ばにとどまった。

 海外に活路を求める既存の製造業を主柱とする産業構造にこれからも頼らざるを得なければ、製造業に多い好条件の雇用はあまり増えないだろう。非正規労働の法的規制を性急に強めると、雇用機会を減らす思わぬ副作用が懸念される。現状を前提に乏しきを分かち合う策に執着するのは縮小均衡の道である。

 袋小路から抜け出すには、付加価値の高い情報産業や新しいサービス産業などの成長を促さなければならない。停滞している規制改革や地方分権などの徹底により、経済構造改革を急ぐことが、活力ある雇用を生み出す最良の策である。
(「日経」20080723)

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東京新聞社説
成果主義賃金
働く意欲を損ねるな

 バブル経済崩壊後、企業が相次いで導入した業績・成果主義的賃金制度は正社員の働く意欲を低下させている−と二〇〇八年版労働経済白書は指摘した。労働者を大切にする経営に立ち戻るべきだ。

 人口減少時代の日本が今後も成長するには働く人が意欲を持ち生産性を高めていくことが大切だ。白書はまず「働く人の意識」を分析し、企業が取り組むべき課題を示した。

 日本の労働者は今、低賃金と長時間労働、パートや派遣といった不安定雇用の増加など苦しい状況に置かれている。白書によると「仕事の満足度」では雇用の安定や収入の増加、仕事のやりがいなど、ほぼすべての項目が一九九〇年代以降、悪化しているという。

 満足度低下の理由は正社員として働ける会社がないため非正規社員となった人が増加したこと、正社員では業績・成果主義の拡大で賃金が抑えられたためである。

 とくに正社員では五十歳代の長期勤続者の意欲低下が目立つ。成果主義の導入で「賃金が低い」とか「評価が納得できない」「職場のコミュニケーションが円滑でない」などを不満としている。

 もともと成果主義は業績への労働者一人一人の貢献度を反映した賃金を決めることで、仕事への意欲を高める手法である。

 ところが成果主義は結局のところ単なる人件費抑制に使われた。企業は利益を内部留保や株主配当、役員報酬などへ振り向け労働分配率を減らし続けた。これでは正社員でもやる気を失うだろう。

 成果主義の問題点は昨年の白書でも「長期雇用の中で培われてきた経験や能力を正当に評価することが重要」と指摘していた。

 今年はさらに「評価基準がばらばら」で「説明も不十分」と踏み込み、同制度は「必ずしも成功していない」と明記した。企業はしっかりと見直すべきだろう。

 もうひとつの課題は非正規社員の増大である。企業は国際競争力の強化に全力を挙げた。コスト削減は当然だが、人材投資まで減らしたことは失敗だ。白書が指摘する「長期雇用の重要性」を再確認すべき時期である。

 政府にも注文がある。行き過ぎた労働法の規制緩和を見直すことだ。パートと正社員との均衡待遇や日雇い派遣の原則禁止に続き、契約社員などの有期雇用にも歯止めをかける。中小企業に配慮しつつ「雇用の安定」つまり正社員化を推進することが重要である。
(「東京」20080723)

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◎「「規制緩和」路線から抜本的に転換し、労働者の生活と権利を守るための労働行政をすすめることが緊急に求められてい」ると。