学習通信080725
◎人類の崩壊への行軍を止める方法……

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さらりーまん
生態学
江波戸 哲夫

だれが止めるのか

 最近、日を置かずして会った複数の旧友が、揃ってマルクスの名を口にしたので、驚くとともに合点もした。

 カール・マルクス。一九九〇年前後の社会主義国の自滅で葬り去られたはずだが、最近の世界情勢はいっそうマルクスの描いた構図に近づいているように私にも見える。

 巨大資本は──、
 ……温暖化で氷河が溶けるのを幸いと北極での資源開発に力を入れ、
 ……はたまたバイオエタノール用の植物を作ろうと、森林に放火をしてさえ開墾に血道を上げ、
 ……ヘッジファンドなどの巨富は環境や食糧までもマネーゲームのターゲットとしている。

 マルクスの唱えた「自己増殖する資本」は今やモンスターのように凶暴化して地球を食い尽くそうとし、その裏に目を覆う貧困=「絶対的窮乏化」が蔓延している。

 しかし旧友ももはやマルクスに戻れるはずもないと苦笑していった。
 「かといって社会主義のほうがもっと悪かったからな」
 「国や国際会議で資本の増殖を調整できればいいんだが、G8の共同宣言ではおまじないにしかならない」
 「無理だよ。どの国も油断をしていたら、相手に出し抜かれ、ひどい目にあうと心配で仕方ないんだ。現にそうなっているからね」
 「ああ、おれもときどき、図々しい隣国に比べて日本はなんてモタモタしているんだ、と腹が立つことがある」
 「結局それが肥大して地球を食い尽くすんだぜ」と旧友は混ぜ返し、あとの言葉を呑んだ。

 誰もが不安に苛まれる人類の崩壊への行軍を止める方法が、まだ誰にも見つからない。

 いつかどこかで天罰が下り、別の崩壊が止めてくれるのを待つしかないのだろうか?(作家)
(「日経 夕刊」20080717)

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日本共産党創立86周年記念講演会
正義と道理に立つものは未来に生きる
志位和夫委員長の講演

──略──

「資本主義の限界」が問われる時代
──未来社会の理想を高く掲げて

 第三に、地球的規模で見ますと、資本主義という体制の是非が問われる時代に入っていることを、お話ししたいと思います。

「資本主義万歳」論から「資本主義の限界」論へ
──状況は大きく変わる

 十七年前のソ連崩壊のさいに、もう一つ、世界を覆いつくした議論がありました。それは「資本主義万歳」、「社会主義崩壊」論であります。「共産党は時代遅れだ」「名前を変えろ」、この大合唱が空前のピークに達したのもこの時期だったと、いまでは懐かしく(爆笑)思い出します。

 日本共産党は、こうした議論に断固として屈しないことの重要性を、国際的にも、日本国民に対しても主張して、不屈にたたかいました。崩壊したソ連は社会主義とは無縁の社会であったこと、世界の資本主義の現実の矛盾の深まりを見るならば、「万歳」などといえる根拠はどこにもないではないかということを堂々と語りぬきました。

 それでも、この時代は、わが党にとって一つの試練の時代であったと思います。私自身は、書記局長になりたてのころでしたが、下りのエスカレーターを駆け上がっている感じで(爆笑)、息せき切って駆け上がっても(笑い)、いつまでも上に進まないというような逆風を感じたものでした。ただ、わが党の多くの同志たちは、党の歴史に確信を持ち、未来に希望を持ち、「逆風もまた楽し」という心境で(笑い)、この時代の試練に立派に耐え抜いたと、私は思います。(大きな拍手)

 ここでも大きな時代の変化を感じます。今では「資本主義万歳」どころか、「資本主義は限界か」という議論が、この日本でも始まっているではありませんか。

 私自身が、そうした流れを最初に実感したのは、「しんぶん赤旗」が新年に企画した経済同友会終身幹事の品川正治さんとの「新春対談」でありました。品川さんは一九二四年生まれです。あの戦争では中国戦線に動員され、文字通りの死線をさまよいました。中国からの復員船の中で、新憲法草案の載ったボロボロの新聞が回ってきて、それを読んで初めて九条を知った。そこには「戦争放棄」と書いてあり、「軍隊を持たない」とまで書いてある。「よくぞここまで書いてくれた」と、喜びのあまり、仲間と抱き合って泣いたという話を聞きました。それ以来、経済界の中にあって九条を守り抜く立場を貫いてこられた方であります。

 ですから、私との対談もたいへん弾みまして、午後から始めましたけれども、夕食になっても終わりません。食事をはさんで六時間にもなりました。平和でも、経済でも、あらゆる問題で意気投合したのですけれども、最後に、夜の十時ぐらいになって、品川さんがこう言いだしました。

 「資本主義のシステムも行き着くところまできているという感じです。私なんかも日常使わない言葉ですが、『新しい社会主義』ということを考えざるをえなくなるんですね。しかもそれは日本共産党のいうようにソ連型ではないものを」。

 品川さんは、日本の資本主義経済の裏も表も知り抜いている方です。私も、テレビなどに出ますと、「どうして株価が下がったのか」などと聞かれることがあります。それなりに説明をしますが、実は、私は、いまだに株というものを見たことがありません(爆笑)。その点では品川さんは、大きな会社の経営に実際に携わってこられた方です。そういう方から、「資本主義も行き着くところまできた」、「新しい社会主義」という言葉がでてきたのは、驚きであり、大きな喜びでもありました。

 つづいて、『週刊朝日』が、「真面目でブレない主張が新しい 日本共産党宣言!」と大きく表紙にありますが、インタビュー特集を掲載しました。中を開きますと、「共産党委員長 資本主義を叱(しか)る」となっています。編集部がつけたリードは、「円高、株安、原油高が進み、経済の先行きは不透明だ。19世紀にマルクスとエンゲルスは『共産党宣言』で『ヨーロッパに共産主義という妖怪が出る』と書いたが、今や国際的な投機マネーに引きずられた『超資本主義という妖怪』が世界を脅かしている。共産主義者の目に今の社会はどう映るのか」。ということで私にインタビューをしたものなのですが(笑い)、「資本主義を叱る」と題する特集が出てきた。

 さらに、テレビ朝日系の番組で「サンデー・プロジェクト」というのがありますが、「資本主義は限界か」と銘打った番組を放映し、そこに出演する機会もありました。テレビ局にいってみますと、番組の冒頭でカール・マルクスの写真が大写しにされて、ナレーションが流れます。「二十世紀に世界的な影響を与えた一人、マルクスがかつて指摘した資本主義の限界。そしていま資本主義の超大国アメリカでおきたサブプライムローン問題、懸念される世界経済の行方、世界中で広がっている格差、資本主義はもはや限界なのか」。

 テレビ局側の注文は、マルクスの『資本論』などから適切に引用をしてフリップにしてほしいというのですね(笑い)。あの分厚い、また決して易しいとはいえない(笑い)、『資本論』から数行を抜き出してフリップにするのは難儀な話でした(笑い)。しかし、テレビのフリップに、マルクスやエンゲルスの言葉がでたのは、本邦初めての出来事になったのではないかと思います。(笑い、大きな拍手)

 このように「資本主義は限界か」という問いかけが、社会の側から広く提起されるようになり、そうなってくると、その答えは他の党に聞いてもしょうがないのです(笑い)。日本共産党に求めてくる(拍手)。これは、私たちがこれまで体験したことがない新しい状況です。

 私は、これは偶然のものではないと思います。その背景には、世界と日本の大きな変化があると思います。とりわけ、資本主義の矛盾が、世界的規模でかつてなく深いものになっていることがあげられます。その矛盾のあらわれはさまざまですが、私は、人類の生存の土台にかかわるいくつかの問題を話したいと思います。

貧困と飢餓
──5秒に1人の割合で飢えによって子どもの命が奪われている

 第一は、貧困と飢餓の問題です。

 世界一の資本主義大国アメリカが「貧困大国」といわれます。世界第二の資本主義国日本で貧困の広がりが一大社会問題になっています。これらは、資本主義という制度と貧困とが分かちがたく結びついていることを象徴しています。

 ここで目を向けてほしいことがあります。それは、いま地球的規模で飢餓が広がっているということです。国連食糧農業機関(FAO)は、八億六千二百万人の人々が食糧不足に苦しんでいるとしています。また、昨年一年間だけで飢餓人口は約五千万人増加したとしています。世界で五歳未満の子どもが五秒に一人の割合で、飢えによって命を落としているのであります。

 こうしたもとで、食料問題を市場任せにすることへの批判が、国連の舞台でも提起されました。今年一月、国連の人権理事会に提出された「食料に対する権利」と題する特別報告書は、つぎのように主張しています。

 「新自由主義理論によると、全面的に自由化され、民営化され、統一された世界市場のみが世界の飢餓と栄養不良を廃絶できる。(しかし)証拠はその逆を示している。過去十年間に、自由化と民営化はほとんどの国で急速に進展した。同時に、かつてなく多くの人が今日、恐るべき恒久的な栄養不足に苦しんでいることを、統計数字は示している」

 人間に食料を保障できるのか。これは、経済活動の最も根本中の根本の問題です。そこのところで、資本主義が世界を管理する資格があるかどうかが問われているということを、強調したいと思うのであります。(拍手)

投機マネーの暴走
──人類の生存が土台からたたき壊されつつある

 第二は、投機マネーの暴走です。

 もともと投機というのは資本主義につきもののものですが、一九八〇年ごろからのアメリカを中心とする金融緩和の流れのなかで、投機マネーが異常に膨張しました。

 いったいどれくらいのお金が投機マネーとして世界を駆け巡っているのか。三菱UFJ証券の試算によりますと、世界の「実物経済」――物やサービスをつくって売り買いをする経済――は、世界のGDP(国内総生産)の合計でだいたい計られますが、四十八・一兆ドルになります。それに対して世界の「金融経済」――世界の株式、債券、預金などの総額は、何と百五十一・八兆ドルに達します。つまり「実物経済」の三倍以上にのぼるところまで、「金融経済」が膨張してしまった。とくに、この二十年間に急膨張しているのです。その差は実に百兆ドルです。そのうち半分、つまりだいたい五十兆ドルは、ほとんど「実物経済」には必要ではないお金だと、この試算をした経済アナリストの方はいっています。五十兆ドルといいましたら、日本円にすると五千兆円をはるかに超える天文学的なお金です。私は億でも見たこともないのに(笑い)、兆となったらもう全然ピンときませんが(笑い)、それだけのお金が、投機マネーとして世界を駆け巡っているのであります。

 ではこの投機マネーがもたらしているものは何でしょうか。私は、二つの大問題があることを指摘しなければなりません。

 一つは、国境をこえた投機マネーの暴走が、各国の国民経済、国民生活を破壊する猛威をふるっていることです。

 アメリカで、サブプライムローンという詐欺商法が破たんすると、投機マネーは証券市場からあふれ出して、原油と穀物の商品市場に流れ込みました。世界中でいま、原油と穀物、生活必需品の高騰が起こっています。その被害を受けているのはだれかといえば、世界の庶民生活であり、発展途上国です。

 日本でも、漁業協同組合が、「このままでは漁に出られない」と、いっせい休漁という抗議行動をおこないました。私は、国際的に共同して投機マネーを規制するとともに、漁業・農業・中小零細企業など深刻な被害を受けている方々への燃油代の直接補てんなどをただちにおこなうことを強く求めるものであります。(大きな拍手)

 もう一つは、日本の株式市場も、短期的な利益だけを追い求める投機マネーによって支配されているということです。そしてそれが企業にリストラ競争を強制しているということです。

 東京証券取引所の毎日の取引の六割は、アメリカを中心とする外国資本であり、外資が支配する投機市場となっているといわれます。品川正治さんと対談したさい、次のような話を聞きました。

 「恐ろしいことに、そういう投機市場が企業の活殺の権を握ってしまっているわけですね。ほんとうは日本の企業は5%の利益を上げていれば成り立つはずなのに、隣で10%の企業ができたら、お金は10%のところにしかいかないんです。20%の企業ができたら全部そっちにいっちゃうんですね。20%のところはどうやったかというと、まず雇用の徹底的なリストラをやった。それだけで、規模は小さくなっているけど、利益率は上がる。隣がリストラしたら、自分の会社もリストラしないでおれないように追い込んでいっているのが、いまのマーケットなんです」。

 このように、たえず利益の高い企業を求めて、短期でお金がどんどん動いていくのが、投機市場なんですね。一つの企業をじっくり長い目で育てようというようにお金が動かない。どんどん短期的な利益を求めて動いていく。それが、企業にリストラを強制し、企業の活殺(かっさつ)の権――生殺与奪(せいさつよだつ)の権まで握ってしまっているという、恐ろしい事態になってしまっているということを、品川さんは話してくれました。

 このなかで、投機マネーによる企業買収・合併(M&A)が恐ろしい現実をつくりだしています。昨年、アメリカのスティール・パートナーという投資ファンドが、日本のブルドックソースを買収しようとした事件がありました。スティールは、おいしいソースをつくろうと思って買収をしようとしたわけではありません。ソースづくりなど、何の関心もない投資ファンドです。目的はただ一つ。ブルドックを買収して、もうかる部分を売り飛ばし、もうからない部分は処分する。会社を切り売りにして利益をあげることにありました。ハゲタカ・ファンドと呼ばれる企業のやり口です。

 スティールによるブルドックの買収は失敗に終わりましたが、今度は、スティールはアデランスの買収に動き、買収からの防衛を図っていた社長を退任に追い込むという事態をつくり出しています。退任に追い込まれた社長さんの悔しそうな顔が忘れられません。アデランスの買収も、もちろん良いかつらをつくることが目的ではありません。ソースでも、かつらでも、何でもいいのです(笑い)。もうかりさえすればいい。こんな横暴なお金の動きを許していいのかということが、いま問われているということをいわなければなりません。(拍手)

 私が強調したいのは、こうした投機マネーの動きで、いちばんの犠牲になっているのは労働者だということです(「そうだ」の声、拍手)。リストラで労働者の首を切り、派遣労働に置き換え、働く貧困層に突き落とす。投機マネーはその元凶にもなっているということを、厳しく批判しなければなりません。(大きな拍手)

 私は、各界から、いま「資本主義の限界」という声があがっている直接の原因に、この怪物のようにふくれあがった投機マネーの暴走を、どうにも抑えられない、こんな資本主義に未来があるのかという危機感が強くあるように感じます。

 みなさん、人類の生存を土台からたたき壊しつつある投機マネーの暴走を、もしも抑えられないとしたら、資本主義に世界経済の管理能力なしといわなければならないではありませんか。(「そうだ」の声、拍手)

地球環境問題
──史上最大の「市場の失敗」と、エンゲルスの警告

 第三は、地球環境問題です。

 いま、地球温暖化が大問題となっていますが、その原因が資本主義の経済活動にあることは、いまやだれも否定できないことです。

 世界の科学者の知見を結集した国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化を、「一七五〇年の産業革命以降の人間活動」、すなわち資本主義の経済活動が原因だと断定しました。

 英国政府が発表した報告書「気候変動の経済学」には、「気候変動は、……いまだかつて見られなかった、非常に深刻で広範囲におよぶ市場の失敗である」と書かれています。温暖化は、人類史上最大の「市場の失敗」、つまり資本主義の失敗であるということを、資本主義の母国であるイギリス政府の報告書も認めているのであります。

 テレビ朝日の番組で、私は、マルクスの盟友のエンゲルスが『自然の弁証法』という著作のなかで述べた次の一節をフリップにして紹介しました。

 「われわれ人間が自然にたいしてかちえた勝利にあまり得意になりすぎないようにしよう。そうした勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐(ふくしゅう)するのである」

 エンゲルスは、たとえば農地をえるために、森林を根こそぎ引き抜いてしまい、森林の保水力を破壊して、大地を荒廃させてしまったなどの例を引いて、「自然の復讐」ということをいろいろな角度から論じたうえで、こう続けています。

 「これまでのすべての生産様式は、労働のごく目先の最も直接的な効果を達成することしか眼中におかなかった。……もっとあとになってはじめて現われ、ゆっくりくりかえされ累積されることによって効果を生じてくる諸結果は、まったく無視されつづけた。……このことが最も完全に実行されているのは、……資本主義的な生産様式においてである」

 「利潤第一主義」──できるだけ多くのもうけをあげることを本性とする資本主義が、「ごく目先の直接的な効果」──つまり目先のもうけしか眼中になく、エンゲルスの言葉でいえば、「あとになってはじめて現われ、ゆっくりくりかえされ累積されることによって効果を生じてくる」ことは、まったく無視し続けてきた。そして、「自然はわれわれに復讐する」。これは、今日の地球温暖化に恐ろしいほど当てはまる警告ではないでしょうか(拍手)。地球温暖化も、その解決ができないならば、資本主義に地球の管理能力なしという大問題をつきつけているのであります。

 こうして貧困と飢餓、投機マネー、地球温暖化などは、「資本主義は限界か」という大きな問題を投げかけています。資本主義がこの問いにどこまで答えることができるかは、今後の大問題です。

 ただ、今の時点でもはっきりいえることがあります。それは、十七年前に「わが世の春」を謳歌(おうか)した「資本主義万歳」論には、根拠も道理もなかった、この問題で歴史は日本共産党に軍配をあげたということであります。(大きな拍手)

 そして、いま起こっている変化は、社会と経済の枠組みを根本から問う大きな新しい時代が始まったことを予感させるものがあります。
──以下略──
(「赤旗」20080725)

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◎「いま起こっている変化は、社会と経済の枠組みを根本から問う大きな新しい時代が始まったことを予感させるもの」と