学習通信080730
◎労働者はカスミを食べて生きていけ……

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あすの話題
わーくとライフのバランス
日産自動車相談役名誉会長
小枝 至

 わが国は、六十五歳以上の人口割合が二一%を超え、いわゆる超高齢社会に入ったと言われる。また、長い間の少子化の影響もあって人口の減少も始まっている。当然の結果として、労働力人口の大幅な減少と高齢化が予測されている。このような中で、日本国内でできる対策としては女性の戦力化と高齢者の活用が考えられる。

 保育の充実とか、高齢者の働きやすい就労形態の導入等、努力が続けられているが、重要なのはワーク(仕事)とライフ(個人の生活)のバランスについて、考え方を変えることではないだろうか。定年までは深夜労働も厭わないワークひと筋、退職後はライフのみと言うのでは、幸福な人生と言えるであろうか。生涯にわたってワークとライフとのバランスを見直すことが労働の質・効率の向上につながり、少ない労働力を有効に活用することになると共に、働く意志がないと見られて労働力人口より除外されている専業主婦らの戦力化にもつながる可能性がある。

 バランスを見直すと言っても一番難しいのは、長期休暇は元より深夜残業や休日出勤を続けている官・民の事務などの間接職、管理職、経営者であろう。日夜努力を続けておられる方々にはおしかりを受けるであろうが経営者や管理職が事故にあったり急病で入院したりした結果、経営が傾いたと言う例は寡聞にして知らない。経営者が年間計画で長期休暇を取るのは欧米では普通の事であり、我が国でも実行できると確信している。残業を減らすと仕事の能率が上がるのは私自身の経験でも事実である。

 労働力人口が確実に減る中で、多くの人が高齢になるまで、ライフを楽しみながら働き続ける社会をつくりたいものである。
(「日経 夕刊」20080729)

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労働条件の引き下げねらう
経済財政諮問会議
「ワークライフバランス」論
藤田宏

はじめに

 労働ビッグバンを推進する中心に位置づけられている経済財政諮問会議・労働市場専門調査会(以下、専門調査会)が、第一次報告として「ワークバランス憲章(案)」を発表し、これを受けた自公政権の「骨太の方針二〇〇七年」は、〇七年中に「ワ一クライフバランス憲章」を制定するとしています。〇七年六月には、「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議が、「『重点戦略に向けての基本的考え方』について」という中間報告を発表しました。内閣府の男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会も七月、「『ワーク・ライフ・バランス』推進の基本的方向報告──多様性を尊重し仕事と生活が好循環を生む社会に向けて」を発表しました。

 これらの報告に共通していることは、「少子化社会」の到来を迎え、その克服と必要な労働力を確保するために、ワークライフバランスの必要性が説かれ、その課題が提起されていることです。たとえば、男女共同参画会議は、「女性労働力率(有業率)の高い国(都道府県)の方が出生率が高い」「両者(出生率と労働力率)に関係する社会環境(施策、制度、価値観等)を改善することが、女性の就労と、男女が子どもを産み育てることの双方によい影響を与える」として、「長時間労働の是正や非正規問題への対応を含めた『働き方の見直し』や地域における『社会的な子育て支援体制の構築』が大きな課題」になっていると強調しています。

 「『重点戦略に向けての基本的考え方』について」の中間報告は、「女性の未婚者と有配偶者の労働力率の大きな差をもたらしている仕事と子育ての両立が困難な現在の構造」を、「女性が安心して結婚、出産し、男女ともに仕事も家庭も大事にしながら働き続けることができるシステム」へ変革すること、「ワーク・ライフ・バランスの実現を目指した働き方の改革」が最優先の課題と強調します。

 労働ビッグバン推進の先頭に立つハ代尚宏専門調査会会長らがまとめた第一次報告は、「働き手の視点」にたって打ち出したことが最大のセールスポイントとされ、「働き方と生活の間に存在する不均衡を是正し、ワークライフバランスを実現することは、日本の将来にとって緊急の課題である」と指摘しています。このなかでは、「ワークライフバランス憲章」の柱として、@多様な働き方の権利を含め、働き方の共通の原則の確立、A多様な保育サービスの提供、保育所の整備による待機児童の解消、B働き方の見直しを通じた仕事の効率化で年間労働時間を大幅に削減する、などを提起しています。

 これら政府サイドの提言のキーワードは、「働き方の見直し」「働き方の改革」です。どの報告でも、「働き方」をどうするかが提起されています。この背景には、一生懸命働いてもまともな生活ができないワーキングプアなど低賃金・無権利の非正規雇用の増大、異常な長時間労働による家庭の存在基盤の破壊など、自公政権のもとで進められてきた弱肉強食の構造改革がもたらした深刻な矛盾があります。自公政権もこの矛盾の打開に着手するポーズをとらざるを得なくなっているのです。

 ワークライフバランスを実現することについては、誰も否定しません。全労連もワークライフバランス実現の取り組みをつよめることを明らかにしていますし、連合の高木剛会長も〇七年十月に開かれた第十回定期大会のあいさつで、ワークライフバランスの実現を強調しました。

 政府も労働界もワークライフバランスの実現という点では一致しています。しかし、ワークライフバランスとは何かということについての定義はあいまいです。日本におけるワークライフバランスの実現の課題は何かについても定かではありません。政府サイドのワークライフバランス論では、「働き方の改革」が強調されていますが、それが労働者にとって何を意味するかについてはあいまいなまま、ワークライフバランスという言葉が一人歩きしている感を禁じえません。

 世界でも名だたる長時間労働の国であり、ワーキングプアなど現代の貧困が深刻化する日本において、確かに「働き方」の改革は必要です。ワークライフバランスを実現するためには、どのような「働き方」の改革が求められているのでしょうか。

──略──

二 自公政権のワークライフバランス

 日本でも政府サイドから盛んにワークライフバランスの実現が強調されています。ここでは、そのなかでも経済財政諮問会議で論議されているワークライフバランス論を中心に検討することにします。その理由は、経済財政諮問会議は、「経済政策に関し、有識者の意見を十分に反映しつつ、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮することを目的」とした機関であり、そこには、御手洗冨士夫経団連会長ら財界代表が参加しているからです。ここで決められたことは、「骨太の方針」として整理され、政府の経済財政改革の指針とされます。

 ワークライフバランスでも、男女共同参画会議「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会」や「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議の提言等を踏まえて、経済財政諮問会議が議論を行うなど、財界が影響力を発揮できるようになっています(「骨太の方針二〇〇七年」)。

 経済財政諮問会議とワークライフバランス憲章

 経済財政諮問会議では、いわゆる労働ビッグバンを推進するために、労働市場改革専門調査会(専門調査会)を設けました。この専門調査会で提起されているワークライフバランス論は、労働ビッグバンの中に位置づけられているのが特徴です。

 労働ビッグバンとは、九五年に発表された財界戦略・日経連「新時代の『日本的経営』」にもとづいて本格的に推進されるようになったものです。九〇年代後半以降、この財界戦略にもとづいて、裁量労働制の拡大、労働時間の弾力化、女子保護規定の廃止、有料職業紹介事業の制限撤廃、労働者派遣の自由化などの財界要求が次々と打ち出され、これを受けて、自公政権が、労働基準法改悪、労働者派遣法改悪などによって、その要求を実現してきました。労働ビッグバン第一段階の攻撃です。その結果、ワーキングプアをはじめとした膨大な構造的な失業者群・非正規労働者群が形成され、年収二〇〇万円以下の労働者が一〇〇〇万人を超えるという現代の貧困化が急加速しています。

 この攻撃を踏まえて、今準備されているのが、労働ビッグバン第二段階の攻撃です。これは、一言でいえば、膨大な構造的な失業者群・非正規労働者群を土台にして、正規労働者を含めてすべての労働者を対象にした、出し入れ自由の労働市場、いつでも労働者の首を切ることができ、いつでも安上がりな無権利の労働者を採用できるシステムをつくろうというものです。今、準備されている解雇の金銭解決制度、就業規則の変更による労働条件の一方的切り下げ、さらには、ホワイトカラーエグゼンプションなどは、その入り口≠フ攻撃ということができます。

《ワークライフバランス憲章の表の顔=t

 この攻撃を準備している専門調査会が打ち出し、経済財政諮問会議で了承されたのが、第一次報告「働き方を変え、日本を変える──《ワークライフバランス憲章の策定》」です。この第一次報告には、表の顔≠ニ裏の顔≠ニいう二つの顔があります。

 まず、表の顔≠ナす。この報告は、「働き手の視点」を前面に押し出しています。「働き手の視点」からみると、「働き方にさまざまなひずみ」が生まれており、その「ひずみ」は「六つの壁」として「働き手の前にたちはだかっている」と、現状を分析します。「六つの壁」とは、@正規・非正規の壁、A働き方の壁、B性別の壁、C官民の壁、D年齢の壁、E国境の壁です。そして、六つの壁を崩して、「多様で公正な働き方を保障」する労働市場改革が必要だと強調しています。

 こうした労働市場を整備するために強調されているのが「ワークライフバランス」の確保です。そのために、「多様な働き方の確保」が必要として、「働く意欲を有する者には、男性と女性、若年者と高齢者を問わず、能力や希望に応じて、短時間就業、学期間就業等、多様な働き方の選択肢が用意されなければならない」とのべ、「多様な働き方が確保されることによって、個人のライフスタイルやライフサイクルに合わせた働き方の選択が可能となり、性や年齢にかかわらず仕事と生活の調和を図ることができるようになる」と提言しています。「学期間就業」など、イギリスで実施されているワークライフバランス施策の第一の柱になっている「多様な勤務形態」を日本でも導入しようという内容です。

 ワークライフバランス実現のために、長時間労働の克服が重視されていることも大きな特徴です。報告は、「働き方と生活の間に存在する不均衡を是正し、ワークライフバランスを実現することは、日本の将来にとって緊急の課題である」として、「全ての就業希望者にとって充実した働き方が可能となるよう」にするために、「豊かな家庭・地域生活と両立するよう、労働時間の短縮と合わせてその取り組みを進めなければならない」と提言しています。

 そして、具体的に、「働き方の見直しを通じた仕事の効率化で年間実労働時間を大幅に削減」することが強調され、完全週休二日制の一〇〇%実施、年次有給休暇の一〇〇%取得、長時間労働の削減による残業時間の半減などの数値目標が掲げられています。

 そのうえにたって、「ワークライフバランス憲章──働き方を変える、日本を変える」が提起されています。憲章は、@多様な働き方の権利を含め、働き方の共通の原則の確立、A多様な保育サービスの提供、保育所の整備による待機児童の解消、B働き方の見直しを通じた仕事の効率化で年間労働時間を大幅に削減するなど五つの条文からなっています。

 このワークライフバランスについての提言は、子育てにも十分かかわれないほどの長時間労働に苦しむ日本の労働者の要求を反映し、一見すると、誰もが反対することのない内容になっています。これが、ワークライフバランス憲章の表の顔≠ナす。

《裏の顔>氛气zワイトカラー・エグゼンプションの導入をねらう》

 しかし、この憲章には、裏の顔≠ェあります。論より証拠≠ニいいますが、この点について、専門調査会の議論にもとづいて検討していくことにします。

 経済財政諮問会議は、「成長なくして日本の未来なし」を運営のキーワードとしているように、財界のための成長戦略を国政レベルでどう具体化していくのかが本来の任務ですから、「専門調査会」の議論でも第一次報告への疑問が出されます。「働き手の視点から出発して、それで終わってしまうと、やはり抜け落ちてしまう問題があるのではないか」「働き手の問題をあまりにも正面からだすと、経営者がそっぽを向いてしまうのではないか」。労働者よりの政策を打ち出しては、財界の成長戦略に水をさすのではないかという疑問です。

 この疑問にたいして、八代会長はこう述べます。「この第一次報告の特徴は、例えば労働時間の議論は第一次報告で行ったから二度と行わないということではない。あくまで第一次段階であるので、それは今後、繰り返し議論しても構わないと思っている。とにかく、最終報告までにはもっと多様な観点から議論できると考える」。つまり、今回は、労働時間の問題にしても、「働き手の視点」にたって検討したが、今後は別の観点からも議論すればいいということです。

 その議論の方向とはどのようなものか。八代会長は、こうも述べています。「非常に政治的な問題からの制約があるので、ホワイトカラー・エグゼンプションの問題は第一次報告には入れなかった。やはり長労働時間の現状を放置したままでエグゼンプションを導入することに対してかなり抵抗があったことを教訓として、ホワイトカラー・エグゼンプションを正しい形で導入するための一つのステップとして、まず労働時間の問題を取り上げた。報告書で取り上げる順序の問題はあるが、エグゼンプションは重要な問題である」。

 国民の批判をかわすために労働時間短縮などの数値目標はかかげる、そうしてあたかも労働ビッグバンが労働者のためのものであるかのように描き出して、それをステップにしてホワイトカラー・エグゼンプションを「正しい形で導入」するというわけです。ホワイトカラー・エグゼンプションは、ホワイトカラー労働者を労働基準法の労働時間規制の対象外にして、残業代を支払わずに、長時間労働に駆り立てることを目的にした制度です。どう考えてもワークライフバランスと逆行します。ここには、ワークライフバランス論を振りまいて、国民の目をごまかして、労働ビッグバンを推進しようとする八代氏の打算がよく示されています。これが、第一の裏の顔≠ナす。

《裏の顔>氛沁タ効性なき労働時間短縮目標》

 裏の顔≠ヘそれだけではありません。第二に、ワークライフバランスを実現するためには不可欠であるとかかげた労働時間短縮の数値目標を本気で実現する意思がないことも、専門調査会の議論を通じて浮き彫りになります。

 専門調査会の議論では、「憲章の位置づけがどのようになるのか伺いたい」という質問が出されます。これにたいする八代会長の回答は、「基本法というオプションも当然あるが、そこまでは行かず、行動指針のような形で提言する予定である」「これは閣議決定みたいなものになる」というものです。

 一九九八年に労働基準法が改悪され、新裁量労働制が導入されたとき、政府は「残業時間の上限規制は年間三六〇時間を限度基準とする」と明確にのべ、長時間労働の災いが広がらないようにすると答弁しました。そして、それまで指針とされていた年間残業時間の上限三六〇時間は大臣告示で「限度基準」に格上げされました。しかし、その実効性はまったくといっていいほど確保されませんでした。労働基準法で明確に規制し、違反した場合には罰則で臨むという確固とした立場が確立されない限り、世界でも特異な利益至上主義に立つ日本の大企業はルールを守らないという横暴ぶりが明らかになった事例のひとつといえます。

 今回、提起される「ワークライフバランス憲章」は、大臣告示でさえない、単なる指針として、労働時間短縮などの数値目標を掲げるというのです。これでは、大企業の横暴を規制することはできず、実効性のまったくない「憲章」となることは明らかでしょう。

 労働時間短縮目標は、ホワイトカラ一・エグゼンプションなどの労働ビッグバンを推進するために、国民・労働者を欺くために掲げられているにすぎないものなのです。

《裏の顔>氛汳タ金・労働条件を低水準に》

 第三に、経済財政諮問会議が掲げるワークライフバランス論は、労働者の賃金・労働条件の引き下げさえねらったものであるということです。

 ワークライフバランス憲章では、「働き方の共通原則の確立」が最初に掲げられています。その点について、第一次報告は、「専門調査会」独特の「六つの壁」の克服が強調されていますが、問題は「六つの壁」を克服する「共通原則」の内容です。結論から言えば、それは、正規賃金の「非正規化」、男性賃金の「女性化」、中高年賃金の「若年化」など、賃金・労働条件の低位平準化をもくろむものにほかなりません。

 これも経済財政諮問会議の議論で明らかになります。御手洗経団連会長は、「多様な働き方が日本に根づくためには労働市場の流動化が必要」と強調しています。正規と非正規の壁をこわして、正規労働者が非正規労働者になったり、非正規労働者が正規労働者になれるようになればいいというのです。これが経済財政諮問会議のいう「働き方の改革」です。しかし、「正規と非正規の壁」を壊すというときに、そこで問題になるのは、労働者の賃金などの労働条件です。非正規労働者の賃金が正規労働者並みになれば、労働者はワークライフバランスの実現に一歩前進します。

しかし、労働ビッグバン推進勢力が考えているのは、その逆です。八代会長は二〇〇六年一二月に開かれた内閣府のシンポジウムの席上で、「正社員と非正規社員の格差是正のため正社員の処遇を非正規社員の水準に合わせる方向での検討」が必要であると述べています。正規労働者の賃金を非正規労働者並みに引き下げよというのです。

第一生命経済研究所の試算では、生涯平均子育て費は三一二六万円必要だが、男性の非正規労働者の生涯賃金は、正規労働者の生涯賃金二億四二二一万円の約四分の一でしかない六一七六万円となっています。これでは、子育て自体が困難で、ワークライフバランスなど望むべくもありません。非正規労働者の道を選択して、子育てをはじめとした自由な時間≠獲得しても、暮らしが成り立つ賃金がなければ生活できません。労働者はカスミを食べて生きていけとでもいうのでしょうか。

 専門調査会の議論を検討すると、ワークライフバランスを提起することによって、労働ビッグバンがあたかも「労働者の利益のためにある」かのように描き出しています。しかし、実際には、労働者の利益になる施策についてはまったく実施する意思がないだけでなく、逆に、賃金・労働条件の引き下げをねらうものであることが浮き彫りにされます。

 イギリスで取り組まれているワークライフバランスの取り組みとの決定的な違いはこの点にあります。イギリスでは、財界・大企業の抵抗はありつつも、全体としてワークライフバランスの土台に位置づけられるべき賃金・雇用の安定などの労働条件にかかわる働くルール確立の取り組みが進められています。しかし、日本の政府・財界が進めようとしているワークライフバランスのなかでは、働くルールの破壊=労働ビッグバンが位置づけられているのです。これでは、ワークライフバランスの実現など図られようがありません。

三 ワークライフバランス実現の課題

 ワークライフバランスの実現は、長時間労働に苦しむ労働者だけでなく、子育てをはじめとした家庭生活と仕事を両立したいという広範な労働者の願いです。この願いを実現するためには、日本で行われている経済財政諮問会議をはじめとした政府サイドのワークライフバランス論のでたらめさを告発し、労働ビッグバンのたくらみを阻止しなければなりません。しかし、それだけでは不十分です。ワークライフバランス実現の課題は何かを明らかにして、攻勢的な取り組みを前進させることが求められています。

 その点では、イギリスにおけるワークライフバランス施策の三つの柱の取り組み──@労働者の要求にもとづいた多様な勤務形態(柔軟な働き方)の保障、A出産・子育て支援、B賃金・労働時間などの働くルールの確立は、日本においても教訓に満ちたものということができます。

《働くルールの確立のたたかいをさらに》

 日本におけるワークライフバランス実現の最大の課題は、賃金・労働時間などの働くルールの確立です。ワークライフバランスを実現するために、出産・子育て支援を充実することに異論をはさむ人はいないでしょう。労働者の要求にもとづいた多様な勤務形態にしても、ヨーロッパのワークライフバランス先進国で取り組まれているように、パートや派遣労働者の働くルールがキチンと保障され、正規労働者が子育てなどの理由で短時間の非正規労働を選択しても、子育て後には正規労働者になれるなどの働くルールが保障されれば、それは当然必要なことです。ここでも、働くルールの確立が焦点になるわけです。

 日本は、ヨーロッパと比べて長時間労働や解雇規制など働くルールが確立されていないということで、ルールなき資本主義≠ニいわれます。日本の財界・大企業は、労働者の権利を根こそぎ奪う労働ビッグバンを準備し、その働くルールの解体的緩和をねらっています。

 イギリスにおいても、財界は、この問題には背を向けています。しかし、イギリスはEU加盟国であり、働くルール確立の先進国であるドイツやフランスなどの影響を受けないわけにはいかないし、実際に欧州議会の議題にもなります。それは当然のことです。そもそも労働条件を国際競争力の条件にしないという国際ルールだからです。それだけに、イギリスにおける働くルール確立の課題は、労働者・労働組合の要求だけでなく、EUレベルでの政治問題として提起されることになります。それはTUCをはじめイギリスの労働者・労働組合の取り組みの追い風≠ノなるものです。

 しかし、日本は違います。日本は、イギリスのようにEUでの動向が直ちに国内の働くルールの確立に直結するような状況にはありません。しかも、日本の財界・大企業は、世界でも特異なまでの利潤第一主義の立場にたって、労働条件を国際競争力の条件にしないという国際ルールを踏みにじり、労働ビッグバンを推進しようとしているのです。それだけに、労働組合がイニシアチブを発揮して、EUでの動向も紹介しながら、人間らしく働くルールの確立にいっそうの努力を傾注することが求められます。ワークライフバランスは、その土台の上にこそ構築することができるのです。

 政府サイドのワークライフバランス論の中で掲げられている労働時間短縮の数値目標や労働者の要求を反映した柔軟な働き方、出産・子育て支援策など、その大半は、現実の日本社会の矛盾を反映したもので、労働者の要求と一致するものです。これらの要求については、働くルールの確立という立場から、その実現をせまっていくことが求められています。
(「前衛」08年2月号 日本共産党中央委員会 p197-211)

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◎ワークライフバランス論の「背景には、一生懸命働いてもまともな生活ができないワーキングプアなど低賃金・無権利の非正規雇用の増大、異常な長時間労働による家庭の存在基盤の破壊など、自公政権のもとで進められてきた弱肉強食の構造改革がもたらした深刻な矛盾が」と。