学習通信080812
◎京滋に二百ヵ所近く……

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オピニオン・解説
取材ノートから
南丹支局 辻 智也

限界集落を見詰めて
故郷の存続
最大の希望

 人口わずか十六人、全員が六十代以上という、南丹市日吉町中世木の牧山地区の現状を伝える連載「牧山通信」を丹波ワイド面で始めて四ヵ月が経過した。公共交通もなく移動商店も来ない、谷筋に沿った細い道の行き止まりに位置する牧山。限界集落の典型ともいえそうな小さな山里の取材を通して見えてきたのは、肩を寄せ合い、伝統を守りながら日々の生活を送る人々のけなげな姿だった。

 立秋の七日。昼下がり、村の中心にある寺「普門院」に男性が集まり、伝統行事「川講」を始めた。大節信仰の一環で、男性だけが参加して毎年この日に行う。七十代とハ十代の十人が牧山川に入って身を清めた。加齢も影響しているのか、川へ入る時に、はしごでつまずいたり、のり面で足を滑らせる姿が目に付く。

 普門院の中で、五月から京都市内の病院に入院し首の手術を受けた田中正巳さん(78)が川講を見守っていた。運転免許を持たない妻とともに牧山をいったん離れたが、回復するとすぐ戻った。今も松葉づえを突きながら「唯一の足」の軽トラックを乗りこなす田中さんのエピソードを、連載の初回で紹介した。

 都市部と比べ、日常生活で多くの不便を強いられていることは否めない。年を取れば取るほど、厳しさは増す。人口が少ないせいか、行政の支援も届きにくい。とはいえ、「昔からのことやから当たり前。(村の暮らしを)不便だなんて思ってない」と話す田中さんら地元の人たちに、つらさや暗さは感じられない。逆に、自然に合わせ淡々と生きる姿に教えられることがしばしばだった。集落内のきずなの強さにも驚かされた。

 実際、住民が集う機会は下流域の農村や都市部に比べてかなり多い。毎月の例会、川講以外にも数多くある講。農繁期には「手間替え」と呼ばれる仕組みがあり、一気に終わらせなければならない種まきなどの仕事を手伝い合う。

 終戦直後、牧山には百人ほどが住んでいた。しかし、林業の衰退とともに人口流出が急速に進んだ。残った住民たちは、村の行事を守り、こつこつと米作りを続けてきた。彼らにとって、集落の存続は最大の懸案であり、希望でもある。村の男性で最も若い中川輝男さん(71)は「ふるさとが消えてしまうなんて、そりゃさみしいですよ」と、しみじみと語る。

 六十五歳以上の高齢者が人口の半数以上を占める限界集落は、京滋に二百ヵ所近くあるとされる。過疎という視点だけでとらえるのではなく、食料生産や上流環境保全などの面から、限界集落の存続を図る動きが広がっている。同時に忘れてならないのは、住む人たちの生きがいの問題ではないか。これからも牧山に足を運び、村人たちの営みの定点観察を続けていく。
(「京都」20080812)

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Q&A
日本共産党 知りたい 聞きたい

限界集落 いま必要な対策は?

 〈問い〉 限界集落とはどんな集落をさす言葉ですか? いま必要な対策を日本共産党はどう考えていますか?(千葉・一読者)

 〈答え〉 限界集落とは、住民の減少と高齢化がすすみ、65歳以上が半数以上になり、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になっている集落のことです。

 国土交通省の2006年の調査によると、山間地域を中心に全国6万2271集落のうち、7878が該当し、なかでも2641集落は消滅のおそれがあるといわれています。

 最大の要因は、長年の大企業本位の経済政策によって、山間地域の基幹的産業である農林業や地場産業がきりすてられ、公共交通や学校などの生活基盤も破壊されるなど、定住条件が壊されてしまったことです。

 これらの集落がある山間地域は自然環境や国土保全、水源涵養(かんよう)など多面的な機能をもっており、国土、環境の維持の面でも放置できない問題になっています。

 政府も過疎対策として、補助金の特例措置などによる道路整備、農政における条件不利地域対策などをとっていますが、農林業の活性化や雇用の創出にむすびついておらず、社会生活上の問題も多く、集落の消滅をとめることができていません。

 近年の広域合併が周辺地域の声を届きにくくしていることも重大です。最近、限界集落という言葉は「マイナスイメージが強い」として、名称の見直しを求める動きもでています。京都府綾部市では、市内の限界集落を「水源の里」と命名し、「水源の里条例」を制定しました。条例では、特産物の開発や新規就農者の支援、地域産業の育成、空き家の活用を含めた住宅の整備をすすめ、定住促進をはかることにしています。このようなとりくみを全国に広げるために、昨年11月に「全国水源の里連絡協議会」が設立されています。こうしたとりくみが広がるようにしていくことも大切です。

 限界集落の再生のためには、新たな人が定住できるようにすることが必要です。定住条件づくりは、住民の知恵とエネルギーを結集し、農林業や地場産業の計画的振興、公共交通機関の確保など生活基盤の整備、生活環境の改善など定住対策の推進などにたいし、全国一律の措置でなく、地域の実態にあった対策が不可欠になっています。そのために、市町村が地域づくりに積極的な役割を果たせるよう、国が真剣にとりくまなければなりません。(野)
(「赤旗」20080712)

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◎「限界集落の再生のためには、新たな人が定住できるようにすることが必要」と。