学習通信081016
◎恐慌……

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「大恐慌に匹敵」
麻生首相、衆院解散より景気対策

 麻生太郎首相は7日午後の衆院予算委員会で、国際的な金融危機について「1929年(の大恐慌)に匹敵する。欧州も巻き込んでいるので、日本に影響は必ず出てくる。目先の景気対策、金融対策が優先されるべきだ」と強調した。

 同時に「国民は、まずは景気対策という気持ちが強い。きちんと応えた上での衆院解散が正しい道筋だと思っている」と述べた。民主党の岡田克也副代表への答弁。

 また首相は午前の衆院予算委で、金融危機に関し「実体経済への影響が一番大きな問題だ。間違いなく日本の輸出に影響が出てくる」と指摘。「米国で金融決済システムが危機にひんしているのが一番の問題だ。世界的に影響して、銀行間の決済が難しくなっている。これまでなかった例で極めて厳しい状況だ」との認識を示した。
(「産経電子版」20081007)

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凡語

「恐慌」
 広辞苑によると「恐慌」とは、景気循環の一局面で失業の増大、破産などが起きる現象だ。連日の株暴落は古典的な症状だが、グローバル化時代の危機は新しい姿で目の前に立ちはだかっている

▼サブプライムローンという危うい債権が、高度な金融工学を駆使して、金融商品に生まれ変わったのが不幸の始まり。疫病が広がるように金融機関を経営難に陥れ、世界中のカネ回りを悪くしている

▼一九二九年に始まった大恐慌で、米国のフーバー大統領は「不況はもう終わった」と主張して、事態を深刻化させた。ブッシュ大統領もようやく手を打ち始めたが、対症療法に限界があり、実効性にも疑問符がつく

▼金融機関は不良債権に弱い。資本が減れば、貸し出しの余力がなくなる。疑心暗鬼が広がり、銀行間の決済資金の貸し借りも停滞。経済活動の血液であるおカネを供給できなくなり、企業や家計を巻き込んだ景気後退が進む

▼こうなれば公的資金の出番だが、税金投入にはどの国も国民の反発が根強い。金融機関の救済でなく、世界恐慌回避のため、米欧も一歩を踏み出したが、追加策を要求するかの株暴落が続く

▼大恐慌を乗り切ったフランクリン・ルーズベルト大統領は「私たちが恐れるべき唯一のものは恐れそのものだ」と述べた。ワシントンでの七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、恐慌への恐れを克服する知恵が出せるかどうか。
(「京都新聞」20081011)

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恐慌

取り付け騒動

 「空が白々と明けて参ります。二階の窓からフト外を見ますと……」
 黒々とまるで沼地をおおいつくす泥のように、群衆がつめかけていた。ものもいわず、ただ波のように彼らはたゆたっている。

 昭和二(一九二七)年四月一九日朝、三十四銀行(その後、山口、鴻池銀行と合併して三和銀行)の大阪・朝日橋支店は何千人という預金者にとり囲まれた。「取り付け」である。

 春もまだ浅い、肌寒い大気の中で彼らはジッと夜の明けるのを待っていたのだ。

 その年三月、すでに金融恐慌ははじまっていた。時の大蔵大臣片岡直温が衆議院予算総会で、うっかり「束京渡辺銀行が破綻したそうだ」と失言したのがきっかけで取り付け騒ぎがおこり、中井、村井、中沢、八十四、台湾……と合計三二もの銀行がつぶれ、ついでに神戸の鈴木商店も倒産した。

 これが金融恐慌である。全国いたるところで預金者による「取り付け騒ぎ」が発生し、支払い停止の大損害を受けた預金者の中には、発狂するもの、自殺するものがあい次いだ。

 その騒ぎがついに大阪に波及し、道修町の薬問屋や繊維メーカーと盛んな取り引き関係をもっていた朝日橋支店をも、巻き込んだのである。

 大正の終り、大学を出て三十四銀行にはいり、そのころは朝日橋支店の貸付係をしていた龍竹定次さん(七二歳=取材当時)が、パニックの恐怖を再現する。

 「やがて夜が明け、あたりに春の陽光が差してきました。私どもも前夜から一睡もしていません。当時、朝日橋支店は二階建ての建物で、一階が貸付や出納係の窓口、つまりカウンターです。二階には応接間や会議室がありました。二階に上がってカーテンのすき間からソッと外を見る。すると群衆がもう四重五重、いや十重二十重……に、グルリと支店を取り巻いていました。支店の建物はまるで海に浮いているボートのような感じ。もうそれだけで足がガタガタ、誰も顔はまっ青です……」

 しばらくすると、群衆は叫び始めた。

 「利息はいらん。元金だけでいい。返せ、返せッ」。銀行内にたちまち非常事態宣言が発せられる。まず出納係がカウンターの上に一〇〇円札を一〇〇枚ずつたばねたものを、次々と積み上げた。ついで、かねての打ち合わせどおり、全員が「日銀特製のハッピ」を身につけた。ハッピの背中は「日本銀行大阪支店」と染めぬかれている。

 いずれも取り付け騒ぎに対応するための苦肉の策で「カウンターにあんなに現ナマが積まれているんだから、金はあるらしい。それに日銀から大勢の応援がきているところを見ると、よもやつぶれることはあるまい。大丈夫だ……」という気持ちを、群衆におこさせるための心理作戦なのであった。

 こうしておいて午前九時、いよいよドアを開ける。群衆はカウンターになだれ込んだ。大口預金者は、すぐ二階の応接室に招き入れ「どうか安心してください。銀行がつぶれることはゼッタイありません」と説明をくり返す。

 一方、行員たちはそのころ、高麗橋にあった本店にかけつけ、リュックサックに札束を積め込んでは朝日橋の支店に人力車で飛んで帰った。が、たちまち現ナマは消えてなくなり、また……と、むなしい往復をくり返す。むろん本店からも応援がくり出した。皆そろいの「日銀特製ハッピ」を着て……。深夜、ようやく群衆は去った。

 「パニックの恐怖、それをいまの若い人には忘れてもらいたくない。恐慌は悪です」

 龍竹さんは安易な経済政策に、心からの警告を発している。
(内橋克人「ドキメント恐慌」現代教養文庫 p18-20)

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 じっさい、最初の全般的な恐慌がおこった一八二五年以来、産業界と商業界の全体、すべての文明国民と多かれ少なかれ未開の従属諸国民の生産と交換は、こうしてほぼ一〇年ごとに一度、支離滅裂になる。

交易は停滞し、市場はあふれ、生産物は大量に、売れないでねかされており、現金は姿を消し、信用は消滅し、工場は動かなくなり、労働大衆は余り多く生活手段を生産したために、生活手段にこと欠き、破産に破産があいつぎ、強制競売に強制競売があいつぐ。

不況が何年かつづき、生産力も生産物も大量に浪費され、破壊され、最後に山と積まれた大量の商品が多かれ少なかれ減価して放出され、やっと生産と交換がだんだんとふたたび動くようになる。

だんだんと歩調がはやくなり、速足になり、この産業上の速足は駈足にうつり、これはさらに速度をはやめてついに完全な産業、商業、信用、および投機の障害物競馬の手綱なしの疾走となり、最後に命がけの跳躍のあと、またもや恐慌の濠(ほり)のなかにおちこむ。

そして、たえずこういうことがくりかえされる。

われわれはこのことを、一八二五年以来、これまでに五回経験し、現在(一八七七年)六回目を経験している。

そして、これらの恐慌の性格は非常にはっきりしているので、フーリエが最初の恐慌を過剰による恐慌と名づけたのは、すべての恐慌にあてはまる。
(エンゲルス「空想から科学へ」新日本出版社 p77-78)

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日本共産党創立86周年記念講演会
正義と道理に立つものは未来に生きる
志位和夫委員長の講演

以上略──

投機マネーの暴走――人類の生存が土台からたたき壊されつつある
 第二は、投機マネーの暴走です。

 もともと投機というのは資本主義につきもののものですが、一九八〇年ごろからのアメリカを中心とする金融緩和の流れのなかで、投機マネーが異常に膨張しました。

 いったいどれくらいのお金が投機マネーとして世界を駆け巡っているのか。三菱UFJ証券の試算によりますと、世界の「実物経済」――物やサービスをつくって売り買いをする経済――は、世界のGDP(国内総生産)の合計でだいたい計られますが、四十八・一兆ドルになります。それに対して世界の「金融経済」――世界の株式、債券、預金などの総額は、何と百五十一・八兆ドルに達します。つまり「実物経済」の三倍以上にのぼるところまで、「金融経済」が膨張してしまった。とくに、この二十年間に急膨張しているのです。その差は実に百兆ドルです。そのうち半分、つまりだいたい五十兆ドルは、ほとんど「実物経済」には必要ではないお金だと、この試算をした経済アナリストの方はいっています。五十兆ドルといいましたら、日本円にすると五千兆円をはるかに超える天文学的なお金です。私は億でも見たこともないのに、兆となったらもう全然ピンときませんが、それだけのお金が、投機マネーとして世界を駆け巡っているのであります。

 ではこの投機マネーがもたらしているものは何でしょうか。私は、二つの大問題があることを指摘しなければなりません。

 一つは、国境をこえた投機マネーの暴走が、各国の国民経済、国民生活を破壊する猛威をふるっていることです。

 アメリカで、サブプライムローンという詐欺商法が破たんすると、投機マネーは証券市場からあふれ出して、原油と穀物の商品市場に流れ込みました。世界中でいま、原油と穀物、生活必需品の高騰が起こっています。その被害を受けているのはだれかといえば、世界の庶民生活であり、発展途上国です。

 日本でも、漁業協同組合が、「このままでは漁に出られない」と、いっせい休漁という抗議行動をおこないました。私は、国際的に共同して投機マネーを規制するとともに、漁業・農業・中小零細企業など深刻な被害を受けている方々への燃油代の直接補てんなどをただちにおこなうことを強く求めるものであります。

 もう一つは、日本の株式市場も、短期的な利益だけを追い求める投機マネーによって支配されているということです。そしてそれが企業にリストラ競争を強制しているということです。

 東京証券取引所の毎日の取引の六割は、アメリカを中心とする外国資本であり、外資が支配する投機市場となっているといわれます。品川正治さんと対談したさい、次のような話を聞きました。

 「恐ろしいことに、そういう投機市場が企業の活殺の権を握ってしまっているわけですね。ほんとうは日本の企業は5%の利益を上げていれば成り立つはずなのに、隣で10%の企業ができたら、お金は10%のところにしかいかないんです。20%の企業ができたら全部そっちにいっちゃうんですね。20%のところはどうやったかというと、まず雇用の徹底的なリストラをやった。それだけで、規模は小さくなっているけど、利益率は上がる。隣がリストラしたら、自分の会社もリストラしないでおれないように追い込んでいっているのが、いまのマーケットなんです」。

 このように、たえず利益の高い企業を求めて、短期でお金がどんどん動いていくのが、投機市場なんですね。一つの企業をじっくり長い目で育てようというようにお金が動かない。どんどん短期的な利益を求めて動いていく。それが、企業にリストラを強制し、企業の活殺(かっさつ)の権――生殺与奪(せいさつよだつ)の権まで握ってしまっているという、恐ろしい事態になってしまっているということを、品川さんは話してくれました。

 このなかで、投機マネーによる企業買収・合併(M&A)が恐ろしい現実をつくりだしています。昨年、アメリカのスティール・パートナーという投資ファンドが、日本のブルドックソースを買収しようとした事件がありました。スティールは、おいしいソースをつくろうと思って買収をしようとしたわけではありません。ソースづくりなど、何の関心もない投資ファンドです。目的はただ一つ。ブルドックを買収して、もうかる部分を売り飛ばし、もうからない部分は処分する。会社を切り売りにして利益をあげることにありました。ハゲタカ・ファンドと呼ばれる企業のやり口です。

 スティールによるブルドックの買収は失敗に終わりましたが、今度は、スティールはアデランスの買収に動き、買収からの防衛を図っていた社長を退任に追い込むという事態をつくり出しています。退任に追い込まれた社長さんの悔しそうな顔が忘れられません。アデランスの買収も、もちろん良いかつらをつくることが目的ではありません。ソースでも、かつらでも、何でもいいのです。もうかりさえすればいい。こんな横暴なお金の動きを許していいのかということが、いま問われているということをいわなければなりません。

 私が強調したいのは、こうした投機マネーの動きで、いちばんの犠牲になっているのは労働者だということです。リストラで労働者の首を切り、派遣労働に置き換え、働く貧困層に突き落とす。投機マネーはその元凶にもなっているということを、厳しく批判しなければなりません。

 私は、各界から、いま「資本主義の限界」という声があがっている直接の原因に、この怪物のようにふくれあがった投機マネーの暴走を、どうにも抑えられない、こんな資本主義に未来があるのかという危機感が強くあるように感じます。

 みなさん、人類の生存を土台からたたき壊しつつある投機マネーの暴走を、もしも抑えられないとしたら、資本主義に世界経済の管理能力なしといわなければならないではありませんか。

──以下略
(「赤旗」20080725)

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◎「恐慌を過剰による恐慌と名づけたのは、すべての恐慌にあてはまる」と。