学習通信081110
◎新自由主義路線の破たん……

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十字路
終末を迎える米国覇権時代

 ベルリンの壁が崩壊したのが一九八九年の秋、その後の約二十年間を、多少大胆な表現ではあるが、米国一国覇権時代とみる。

 米国を覇権国と呼ぶのは、国際社会の中で圧倒的な軍事力と経済力を有していたからである。ドルは世界の基軸通貨だった。政治面でも民主主義国家であり、英語は世界的にみて国際用語として通用している。しかし、その米国の覇権国家としての地位が危うくなってきた。

 まず軍事面から考えてみよう。現在の米国最大の戦略目標は核兵器不拡散にある。米国は今、北朝鮮やイランなどの難しい問題を抱えているが、それはひとまず横へ置くとして、米国にとって最大の軍事相手はテロリストである。制圧は非常に難しい。問題は、いつ彼らが核兵器を手にしないとも限らないことだ。

 経済面はどうか。今回のサブプライム問題で明らかになったように、米国の主要産業は金融業である。しかし金融業は本来、実体産業と密接な関係にあるべき産業である。なぜならば、金融市場は本質的に投機志向であり、絶えず実体経済の歯止めを掛けておく必要があるからだ。

 米国では、金融業がそれ自体独立の産業になっている。人類のために付加価値を生み出す産業ではなく、関係者が自己の資金を稼ぐための産業なのだ。彼らが言う金融派生商品だの金融工学だのというのは、大部分がそのための手段でしかなかった。

 今日までに、米国を中心とする関係国金融機関が不良資産処理で巨額損失を被ったことが明らかになっている。実体経済への影響は少なくとも数年に及ぶであろう。

 経済が立ち直るのはどこからか。それは根強く生き残る発展途上国、新興国からで、欧米などの主要先進国からではない。政治面も含めてだが、世界がサブプライム問題から立ち直った時には世界地図は大きく塗り変わっているだろう。(吉田経済産業ラボ代表 吉田春樹)
(「日経 夕刊」20081105)

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米日席巻した新自由主義破綻の意味

 世界を震怒(しんかん)させているアメリカ発の金融危機は何を意味するのか。

 「レーガン時代の終焉 (しゅうえん)だ」

 十月三日、東京・立教大学でのシンポジウムで、佐々木卓也・同大教授は指摘しました。

 一八八一年にスタートしたレーガン政権は、内政では企業と富裕層に対する大規模な減税と金融分野などの規制緩和。そして軍事力を背景にした強い外交。ブッシュ政権は「レーガン政権のアジェンダ(課題)の完成化をはかろうとして行き詰まった」といいます。

 レーガン後、民主党・クリントン政権で銀行業と証券業を分離したグラス・スティーガル法(一九三三年)の廃止。ブッシュ政権で、大手投資銀行(証券会社)が少ない自己資本でけた外れなもうけを得ることができるように「ネット・キャピタル・ルール」の規制を緩和。その帰結が、リーマン・ブラザー・ズなど五大投資銀行の全滅、一九二九年の大恐慌以来最大の金融危機です。

 三十年近くアメリカを支配してきた新自由主義。その破たんが、「チェンジ」を求めるアメリカ世論となっています。

自公政権の窮状

 日本はどうか。 「このまま解散・総選挙に突入してもたたかう武器がない」。自民党議員の言葉に、麻生・自公政権の窮状が表れています。昨年の参院選での自民党の大敗、その後の安倍・福田両首相の政権投げ出し、小泉元首相の退場。国民に否定された「構造改革」に代わる旗印を立てられずにいます。

 総選挙を控えて、自民党議員が欲しているのは農林水産業、中小零細企業、建設業などへの対策。「支持顔の自民党離れが進んでいる状況では、これらに手当てができなければ総選挙は苦しい」(自民党関係者)。政府・与党の景気対策が「バラマキ」となるゆえんです。

 「国内政局より国際的な役割が優先だ」。国民の審判を恐れる麻生首相はいいます。アメリカ発の金融危機の深さは計り知れず、日本の金融・経済は先行き不安。それでも構造改革路線を転換できない麻生自公政権です。

 アメリカ発の不況を口実に、トヨタ自動車グループは派遣社員の契約解除など大規模なリストラに乗り出しています。低賃金、非正規雇用は当たりまえとする構造改革路線こそ、内需を縮小させ、経済を悪化させる要因です。

 日本の「構造改革」は、レーガン政権が実施した「大規模な企業減税、航空・通信・金融分野などにおける規制改革……の一連の政策」に倣った──。御手洗冨士夫日本経団連会長は「経団連ビジョン」で語っています。

 日本への新自由主義の導入・浸透で、自民党から分岐した「新党」は独特の役割を果たしてきています。

 日本で新自由主義経済の導入が本格化するのは、現在の小沢一郎・民主党代表が中心の細川・非自民連立政権から。細川首相の私的諮問機関が「経済的規制は『原則自由』」を打ち出しました。

 根本的に転換を

 日本の金融システムをアメリカ型に変える「金融システム改革法」も自民党と民主党、自由党などが賛成。民主党は派遣労働を原則自由化した労働者派遣法改悪などにも賛成。「経済的規制は原則廃止」を政策に掲げていました。同党が派遣労働是正や後期高齢者医療制度廃止を主張するようになったのは最近のことです。

 自民党が消極的なときはより積極的に、世論が小泉構造改革に反発するようになれば、それにあわせる。そこにあるのは自民党への対抗心だけです。

 今、アメリカと日本を席巻した新自由主義路線の破たんが明白になりました。求められているのは小手先の手直しではなく、根本的に転換する政治です。
(「赤旗」20081105)

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◎「政治面も含めてだが、世界がサブプライム問題から立ち直った時には世界地図は大きく塗り変わっている」と。