学習通信081118
◎知らぬまにテレビの影響を受けている……
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テレビの影響力
みんなテレビって好き? 「だーい好き」という人は意外に少なくて、「本のほうが好き」「最近はインターネットに夢中」という人が多いんじゃないかな。でも、自分じゃテレビなんてあまり見ていないと思っていても、知らぬまにテレビの影響を受けていることだってあるので、ご注意を。今回はそういうお話だ。
このあいだ用事があってあるビルに行ったら、展覧会のスペースがある一階にものすごくたくさんの人がいた。それもほとんどがみんなのお母さんくらいの年齢の女性。「有名な画家の展覧会でもやっているのかな?」とのぞいてみると、版画家の個展のようだった。でも、名前は知らない人。人り口のところに書かれていた説明を読んでみると、これまであまり展覧会などをやったことのない作家のようだった。
しかも、集まった女性たちの様子もなんとなくヘン。「好きな作家の展覧会に来た!」という感じではなく、「これじゃない?」「どうする、見てみる?」なんて迷っている声も聞こえてくる。この人たちは、いったいどうしてここに来たんだろう? 私は、ちょっと恥ずかしかったけど、会場の係の人にたずねてみた。「あのー、ずいぶん混んでいるようですけど、何か理由が……?」。すると係の人はにっこり笑ってこう言ったのだ。「あー、この作家、昨日、テレビの『徹子の部屋』に出たんですよ」。このたくさんの女性たちはどうやら、テレビ番組ではじめてその版画家のことを知り、「ちょっと行ってみようかな」という気になって集まったようなのだ。
それにしてもすごい人だった……。
私はあらためて、「テレビの影響力ってすごいな」と思い知らされた。だって美術展や展覧会にわざわざ出かけていくって、けっこうたいへんなことでしょう。私なら、よほど好きな作家の絵や版画があるときでなければ、とても美術館までは行かない。
それなのに、この人たちはほとんど知らない版画家の作品を見ようとして、会場まで来ているわけだ。そして、彼女たちをそうさせているのは、きっとテレビの力。もし、雑誌や新聞にその版画家のことが載っていたとしても、「よし、行ってみようかな」とまでは 思わなかったんじやないかな。
もちろんテレビは楽しいし、ときには知識を増やしてもくれる。ニュースや災害情報などを知るためにも、テレビはなくてはならないもの。でも、その影響力のすごさには、私たちはちょっと注意する必要がある。テレビを見ているうちに、なんとなく「これ、ちょっと好きかも」という気分にさせられている、ってこともあるかもしれない。
テレビで情報を手に入れても、好きかきらいかを決めるのは、あくまで私自身。そのことを忘れずに、かしこくテレビを楽しみたいもの。……とはいっても、私もかなりテレビ好きおぱさん≠ネんだけどね。
□テレビが好きですか
□テレビを見すぎるのはよくないことだと思いますか
□どんな番組が増えてほしいですか
(香山リカ著「10代に考えておくこと」岩波ジュニア新書 p107-109)
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メディア時報 テレビ
関西テレビ民放連復帰をめぐって
沢木啓三(ジャーナリスト)
「発掘!あるある大事典U』の提造問題で、関西テレビを除名処分にしていた日本民間放送連盟(民放連)はさる四月十七日、同局の条件付き連盟復帰を突如発表した。その広報発表文は民放連のホームページで見ることができるが、短いものなので以下に全文を引用する。
〈社団法人日本民間放送連盟〔民放連、会長:広瀬道貞・テレビ朝日会長〕は、番組問題により昨年四月に 除名した関西テレピ放送から、再入会の申し入れがあったことを受けて、本日(四月十七日)開催の緊急 対策委員会と理事会で審議した結果、下記のとおり同社の入会を認めることを決定いたしましたのでお知らせします。
記
・関西テレビ放送の再入会を本日四月十七日付で認める。
・ただし、同社の会員活動は当分の間、停止する。
・会員活動の停止は、「役員、委員会委員を選任しない」「総会、会員協議会等会合への参加を禁止する」「民放連主催行事への参加を禁止する」を基本とする。
・民放連への全面的な復帰については、九月に改めて検討する。
(以上の結果、フジテレビジョン系列が放送するオリンピック放送番組は、近畿地域では関西テレビ放送で視聴できる。)〉
「プレスリリース誤配信問題」
多くの人が唐突な印象を受けるであろうこの発表には、背景の経緯についての説明が必要だろう。昨年一月に発覚した「あるある」捏造問題はまさに巷の話題を席巻するほどの重大関心事となったが、今年二月には民放連復帰へ向けて具体的な動きが始まっていた。それが暗礁に乗り上げたのは、同じころに関西テレビが発したある広報資料(プレスリリース)に原因があった。
今年八月に予定されている北京オリンピックの放送予定を記したこのプレスリリースにはフジテレピと並んで関西テレビの名前が記載されていたが、民放連を除名されていた関西テレビにはオリンピックの放送権がなかった。オリンピックの日本での放送権はNHKと民放各社で構成する「ジャパンコンソーシアム(JC)」が国際オリンピック委員会(IOC)と交渉して獲得しているからだ。しかも関西テレビはこのプレスリリースの問題について新聞報道が出るまで気がつかず、民放連復帰について議論する「近畿民放社長会」を迎えてしまった。
会議の席上、関西テレビの対応は「緊張感がなさすぎるのではないか」と批判の対象とされ、本来なら近畿の民放各社が満場一致ですんなり関西テレビの民放連復帰を推薦するという場になるはずの社長会が、一転して「推薦見送り」を決定してしまったのだった。これによって、関西テレビの社内に走った衝撃はたいへんなものだったようで、一時は「社員が昼食を取りに外出するのもはばかられるような雰囲気」(ある社員の話)に包まれていたという。
たしかに、除名処分の重さをちゃんと受け止めていないような関西テレビの態度はまったく弁解の余地のないところだと言えそうだし、問題のプレスリリースは、関西テレビ広報部の派遣社員がフジテレビの資料をもとに作成したものを社員がちゃんとチェックせずに配信してしまったという、「あるある」事件をまさにほうふつとさせるような構図があった、というおまけもついていた。
しかし、番組提造事件とは異なって、この「プレスリリース誤配信問題」はおよそ視聴者のあずかり知らぬ問題であり、むしろ除名処分が解除にならないことにより、フジテレビ系列で関西テレビだけが北京オリンピックの放送ができなくなるほうが、近畿地区の視聴者に対して大きな打撃になることは誰もが予想できたことだった。
民放連としては、一時は他の系列で放送できないか、また近畿地方の独立U局(京都放送、サンテレビ、奈良テレビなど)がオリンピックのために特別にネットワークを組んで放送できないかなど、代替策を検討したという。しかし、カバーエリアの違いや技術的困難さなどの問題からいずれも断念、前記のような「条件付き再入会」に急きょ決定したという。広報発表文の末尾にわざわざカッコ書きで〈フジテレビジョン系列が放送するオリンピック放送番組は、近畿地域では関西テレビ放送で視聴できる〉と書かれていたのはそのためだ。
広報発表文書の違和感
それにしても、関西テレビの再入会を認めた民放連のこの広報発表文を読み返すと、誰もが強い違和感を覚えると思う。というのは、この短い広報文の中では、関西テレビの再入会を認める理由について、一切触れられていないからだ。
直近まで「オリンピック放送の問題は民放連復帰の理由にはならない」と言明していた民放連の広瀬会長は、毎日新聞記者の「関テレの改革を民放連としてはどう評価しているか」という質問に対して「第三者の調査委員会や検証番組、それに内外の風通しをよくする活性化委員会を作って委員と社員が懇談した。自分たちの責任で改革するという気概が出ている」と語っている(毎日新聞五月十二日東京朝刊)。しかし、関西テレビが「活性化委員会」を設置したのは去年の夏のことだから、こうした理由で復帰を認めるならもっと早期に復帰の話が出てもおかしくないはずだ。民放連の広報文を見る限り、オリンピック放送をめぐる混乱を避けるための場当たり的措置、という印象は否めない。
同じ毎日新聞の紙面で、立教大学の砂川浩慶准教授は〈北京五輪の放送については、放映権を持つNHKと民放でつくる「ジャパンコンソーシアム」が関テレにサプライセンス(再許諾)を与えることは可能なはずで、復帰とは別に解決できる問題だと指摘している。
関西テレビの努力と民放連
では、関西テレビは「あるある」事件以降、どのような対策をとり、信頼回復に向けた努力を続けてきたのか、簡単に紹介しておきたい。
民放連会長も評価した関西テレビの「活性化委員会」は社外の有識者六名で構成され、視聴者からの意見や苦情を受け付け、また番組制作者が自分の良心に反する業務を命じられた場合などに会社に改善を求める組織で、自己検証番組「月刊カンテレ批評」での委員会の発言権が保障されている。この活性化委員会は、番組の内容ばかりでなく、放送局としてのあり方についても第三者的に監視・提言の対象としているという。
また、「あるある」の反省を踏まえて、関西ローカル枠ながら科学情報番組「Sーコンセプト」をほぼ月一回のぺースで放送している。この番組は科学的根拠のしっかりした番組を作ろうという趣旨で、専門家を番組の監修者として置いた。また会社の所属や身分にかかわらず番組制作にかかわっている人の氏名をすべて記載した「制作責任担当表」の作成や制作会社に対する制作費の一部前払いの実現など、独自の取り組みがすでにいくつか実行されている。
さる四月末に開かれた関西テレビ労働組合主催の「放送フォーラム」では、組合員への緊急アンケートの結果が紹介され、関西テレビ労組の多くの組合員から「今まで人任せにしていたことが過ちを犯した」「番組の失敗を番組で取り返したい」「すべては視聴者の利益のために、と考えるべき」などという声が数多く聞かれた。関西テレビで働く人々の反省は真摯なものだと評価できるだろう。
前述のような改革は、関西テレビのみならずすべての放送局で取り組まれてしかるべきだと筆者は考える。なぜなら、「あるある」提造問題は、番組制作の下請け″\造や視聴率至上主義など、関西テレビ固有の事情というより、今の民放業界に普遍的な病理の表れというべき問題だったからだ。だから関西テレビのこれらの努力を民政連が評価するのであれば、同様の改革を民放連加盟社全社で取り組まなければならないはずだ。
関西テレビ復帰の理由としてこれらの改革を明記しないのは、民放連としてはこのような改革をする気がない、と言っているのと同じことだ。言い換えれば、民放業界は「あるある」事件から何の教訓も学ぶことなく、嵐の通り過ぎるのをただ待っていただけ、ということになる。
本当に反省すべきは、関西テレビよりむしろ民放全体なのではないか。(さわき・けいぞう)
(「前衛」08年7月号 日本共産党中央委員会 p153-155)
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◎「「あるある」提造問題は、番組制作の下請け″\造や視聴率至上主義など、関西テレビ固有の事情というより、今の民放業界に普遍的な病理の表れ」と。