学習通信090123
◎豚はふとり……

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 アーク川を去って、ふたたびロング・ミルゲートの向かい側にある労働者住居の真ん中にはいりこむと、セント・マイケル教会からウィージ・グローヴとシュード・ヒルまでひろがっている、やや新しい地区にはいる。ここは少なくともいくらか秩序だっている。混乱した町づくりの代わりに、ここには少なくとも長いまっすぐな裏通りと袋小路や、計画的につくられた、たいていは四角形の囲い地がある。

先にのべた地域では一軒一軒の家が無秩序に建てられているのだが、ここでは少なくとも一つひとつの裏通りや袋小路が勝手気ままに、ほかの裏通りや袋小路の状態をまったく無視してつくりつづけられている。

一つの裏通りが、あるときはこちらへ、あるときはあちらへと走っており、すこしでもすすむと袋小路にはいったり、建物でふさがれた町角を曲がり、またもとのところへもどってしまったりする──この迷路はかなり長いあいだ住んでいた人でなければ、確実にとおりぬけることはできない。

このために街路──この地域についてこういう言葉を使うことができるなら──と囲い地とは、アーク川地域と同じように風とおしが悪く──それにもかかわらず、この地域がアーク川の谷よりはいくらかすぐれているとしても──たしかに家は新しいし、道路には少なくともところどころに下水溝がある──その反面、ほとんどすべての家には地下室住居がある。

こういうことは、アーク川の谷では、家がもっと古く、建て方が悪いために、ほとんど見られないことであった。それ以外の点では、道路にごみや瓦礫と灰の山や水たまりがあることは両方の地域に共通している。

そして、いまのべている地域には、そのほかになお、住民の清潔さにとってきわめて不都合な事情がある。

それはたくさんの豚がいることで、豚は裏通りをいたるところでうろつきまわって、汚物を嗅ぎまわり、あるいは囲い地の小さな小屋におしこめられたりしている。

豚の飼い主は、マンチェスターの労働者地区の大部分でやっているように、囲い地を賃借して、そこに豚小屋を建てている。

ほとんどどの囲い地にも、奥の方にいきどまりの隅があって、そこへ囲い地の住民がごみや汚物をすべて投げこむ──それによって豚はふとり、この四方を建て物でふさがれた囲い地にもともとこもっていた空気は、植物性や動物性の物質が腐敗して、まったくひどいものになる。

この地区を幅のひろい、かなり品のよい道路──ミラーズ・ストリートーが貫通し、背後にあるものはかなりうまく隠されてしまった。しかし、もし好奇心にそそられて、囲い地につうじている多くの通路のどれか一つにはいりこむなら、二〇歩歩くごとに、文字どおり豚のように汚いものを、くりかえし見ることができるであろう。
(エンゲルス著「イギリスにおける労働者階級の状態 上」新日本出版社 p91-92)

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 私は二〇年前に中国各地を旅していたが、蘇州で道路脇の公衆トイレに入ったとき、その穴の下が舟であることに気づいた。また家から持ち出したと思われる、樽のようなおまるが干してあった。

中国では揚子江以南で厠が早くから作られており、農民の作物と交換していたという。恐らく二〇年ぐらい前までは、数千年にわたるこの交換がまだおこなわれていたのではないだろうか。

日本でも農村では、排泄物の落ちるところに砂を敷いておき、そこにためて肥やしとして使えるようにしている地域があった。

 中国も北では、糞尿を土と混ぜて乾燥させてから蓄えたり田にかけたりする。

また人糞を豚の餌にしたのは有名な話しで、かつて便所の下には豚がいたという。この豚は人間の食料であった。

そうやって循環する。

現在でも一部でこの飼育方法がとられているはずである。

ヨーロッパで休耕地に家畜を放つのは、家畜の糞を肥料にしたのだという。これも一九世紀までおこなわれた。
(田中優子著「カムイ伝講義」小学館 p96-97)

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◎「豚の飼い主は、マンチェスターの労働者地区の大部分でやっているように、囲い地を賃借して、そこに豚小屋を建てている」と。