学習通信090130
◎若者が居住貧困にある……

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 最後にこれまでのべてきたことを、もう一度簡単にまとめておこう。

大都市にはおもに労働者が住んでいる。

そこでは、もっともよい場合でも、労働者二人、しばしば二人、ところによっては四人にたいして、ブルジョアが一人という割合である。

これらの労働者は自分では財産をまったくもっておらず、賃金で暮らしており、いつでもその日暮らしである。

まったく原子に解体してしまった社会は彼らのことはかまってくれず、自分とその家族の面倒は自分でみろといいながら、十分に、そして長期間にわたって面倒をみていくだけの手段を、彼らに与えないのである。

したがって、どの労働者も、もっとも恵まれた労働者でさえ、つねに失業、つまり餓死の危険にさらされているのであって、多くのものが餓死しているのである。

労働者の住宅は、だいたいにおいて配置が悪く、建て方も悪く、修理もされず、換気も悪く、じめじめして不健康である。

居住者はきわめて狭い空間にとじこめられ、たいていの場合、一つの部屋に少なくとも一家族が寝ている。

住居内の設備の貧弱さにはいろいろな程度の差があるが、もっともひどいのは必要不可欠の家具さえまったくない。

労働者の衣服もやはり平均的に粗末であり、大部分はぼろぼろである。

食事も一般に粗末で、しばしばほとんど食べられないようなものである。

そして多くの場合、少なくともときどきは量的にも不足しており、極端な場合には餓死することになる。

──大都市の労働者階級はさまざまな段階の生活状態をしめしている──

もっともよい場合には、一時的にまずまずの生活ができ、はげしい労働の代わりによい賃金と、よい住居と、けっして悪くない食事がえられる

──当然、よいとか、まずまずというのはすべて労働者の立場から見てのことだが──

最悪の場合には、ホームレスとなり、餓死にまでいたる極度の貧困がある。

しかし平均は最良のものより最悪のものの方へ、はるかに近い。

そしてこれらの段階は、単純に固定した階級のように区分されているのではなく、労働者のうちのこの部分はよく、あの部分は悪く、いつもそうで、以前からそうであったなどとはいえない。

そうではなく、たとえあちこちにそういう状態があるとしても、そして若干の労働部門が全体として他の部門よりまさっているとしても、各部門の労働者の状態ははなはだしく動揺しており、したがってどの労働者も、比較的快適な状態と、極端な窮乏、それどころか餓死にさえいたる状態のあいだのすべての段階を経験することもあるのである

──だからこそ、イギリスのプロレタリアはほとんど誰でも、大きな運命のうつり変わりを語ることができるのである。
(エンゲルス著「イギリスにおける労働者階級の状態 上」新日本出版社 p120-121)

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若者たちに「住まい」を!
 格差社会の住宅問題

はじめに
  大本圭野

 二〇〇八年、新自由主義の最先端を進むアメリカにおいて低所得者向け住宅ローンの証券化によるサムブライム問題から発する不良債権化が、アメリカ経済をはじめ世界経済を深刻な危機に陥れている。このことは、今日、ジャーナリズムにおいても新自由主義による政策の破綻であると認められている。

 日本においても一九七〇年代後半から新自由主義・市場原理主義にもとづく経済・社会政策が導人され、とくに二一世紀に入ってから小泉構造改革により強力に推進されてきた。その結果、労働、医療、教育、住宅、食料生産など人間生活の基本的領域において大々的な規制緩和がなされてきた。

 四半世紀に及ぶこのような政策の遂行によって労働・所得格差、医療格差、教育格差、地域格差など様々な格差拡大、およびその延長としての貧困化現象が各領域で報告されている。

 すでに労働においては雇用者の三分の一が非正規労働となり、正規労働と同一労働であっても低所得で長時間労働を強いられ、くわえて、常時、雇用不安にさらされるという状態がつくられている。

 また、かつては社会的に弱い立場にある人々としては、高齢者、障がいのある人、病気の人、母子、児童、失業者などが挙げられていたが、近年では新たに、エネルギーに満ちあふれた働き盛りであるはずの若者たち≠ェそれらのなかに含まれるようになり、その貧困状態が報告されるようになった。ネットカフエ難民≠ネど、その典型例である。

 住宅政策も例外ではなく、公営住宅の改悪、公的住宅の縮小・削減、居住権保護を目的とする借地借家法の無力化、民間住宅建設の規制緩和などが進むなか、マンション建設の乱立とマンションの使い捨て、空き家の増大、耐震偽装間題の発生を招く一方、公共団地における居住者への強制的立ち退き、高住居費化などが起きている。つまり一方では住宅過多によってコミュニティの崩壊状態がうまれ、他方では高家賃、人居排除で住宅難民を輩出するという相矛盾する事態にたち至っている。このことは社会的資源の浪費であるとともに国民総ホームレス化に向かう危険性をはらんでおり、国民の居住問題はまさに無政府的状態にあるといえる。

 とはいえ居住領域においては、居住貧困の実態はいまだ体系的には明らかになっていない。

 現在、世界一になっている日本の超少子・高齢化は、将来人口が確実に減少するので合計特殊出生率を上げるための種々の模索がなされている。しかし、若者が居住貧困にあるもとでは有効な抜本的方策が見いだされるはずはなく、年々、数値は下がる一方である。

 本書は、こうした問題状況にある若者たちがおかれている労働・所得・住居の実態を統計的・政策的に解析したものである。とくに二五歳から三五歳までの若者たちを中心に労働・所得・住居の状態にくわえ、住宅手当など社会保障面での国際比較を通じて日本の実態を析出・告発し、政策の改善点を指摘している。

 予め本書の意義を述べておくと、第一に、若者たちが新たに社会的に弱い立場に位置づけられたことである。そのことは、今後、これらの若年階層を積極的に生活保障の対象として取り上げられるべき存在として位置づけることが必要であることを示唆している。

 第二に、新たに弱い立場にある若者たちが、生活を自立させていくうえでの不可欠の条件である労働・所得・住居への支援・保障がまったくといってよいほどされていない状況が明らかになったことである。若者が政策の恩恵から抜け落ちているのである。このことは、日本の次世代を担う人びとに、GDP(国内総生産)世界第二位に位置する日本経済が生み出した富が配分されずに社会的に排除されていることを示しており、このままでは日本の未来は暗いといわざるをえない。

 第三に、超少子・高齢化の大きな原因が、若者への労働・所得・住居などへの生活保障がなされていないため結婚、子育てをする条件が充たされていないことが実証されたことである。

 第四に、先進的福祉国家と異なり住居の権利が人権として認められていない日本において、社会的に弱い立場にある人びとに対する住宅政策を明示したことは、研究上・政策上の寄与として高く評価できる。

 日本住宅会議創立二五年に当たり、平山洋介(第一章)、丁志映(第二章)、川田菜穂子(第三章)、坂庭国晴(第四章)の会員によってこのような研究成果を世に問うことができたことは日本住宅会議への貴重な記念碑となるものであり、筆者の方々に深甚な感謝を申し上げる次第である。

 おおもと・けいの(日本住宅会議理事長、東京経済大学経済学部教授、専門は社会保障、住宅政策)
(日本住宅会議編「若者たちに「住まい」を! 格差社会の住宅問題」岩波ブックレット p2-4)

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◎「したがってどの労働者も、比較的快適な状態と、極端な窮乏、それどころか餓死にさえいたる状態のあいだのすべての段階を経験する」と。