学習通信090203
◎マスメディアが強く要求していくのが……

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朝の風
マスコミへの兵糧攻め

 広告宣伝費の大幅削減のため、マスコミ各社の業績が悪化している。昨年、全国紙五紙のなかで一万部増と唯一部数を伸ばした日本経済新聞でも二期連続の大幅減益となる見込みだ(『週刊東洋経済』一月三十一日号)。

 懸念されるのは、少なくなる広告費をむしろ逆手にとって、大企業・財界がマスコミヘの圧力を強めていることだ。たとえば、朝日新聞が〇六年十月にキヤノン宇都宮工場や大分工場の「偽装請負」問題を報じたところ、御手洗経団連会長のキヤノンは、翌月から一年半にわたり、朝日新聞への広告出稿を中止した。これに経団連副会長会社の松下電器(現パナソニック)も同調した。この結果、各紙は「御手洗批判をやることで、社の収益に影響を与えたら大変と、批判記事を極端にのせなくなった」という(『BOSS』二月号、針木康雄主幹)。

 昨年十一月には、年金問題などでの厚労省批判にたいし、奥田前経団連会長が「マスコミに対し、なんか報復でもしてやろうかな。たとえばスポンサーにならないとかね」と発言し物議をよんだ。

 「経団連の首脳たちは、マスコミを兵糧攻めにして、自由な言論を封じようとしている」。この針木主幹の警告にどう応えてゆくか。各紙の迫力ある報道を期待したい。(雀)
(「赤旗」20090203)

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メディア時評 新聞
大量解雇とその反撃の報じ方
 金光 奎・ジャーナリスト

 本号本欄で批評の対象となるのは、〇八年を締めくくる一一月後半から一二月前半にかけての紙面である。この時期は、例年以上に国民、労働者の暮らしを脅かす年の瀬となった。アメリカの金融危機に端を発した急速な景気悪化のなかで、とくに労働者、若者と中小零細企業に深刻な打撃を広げた。本欄では、このうち大企業の横暴によってつくりだされた雇用問題の重大な事態に焦点をあてる。大企業が次々と発表・強行した派遣社員や期間社員など非正規雇用の労働者に対する大量解雇の問題である。

 これら労働者たちは会社側からの突然の通告によって解雇され、それも契約期間中途で通告されたうえ、理不尽にも生活の場である寮を追い出され、住む場所さえなくなり、師走の街に放り出されたのである。本欄をまとめる時点で、すでに不法な大量解雇を打ち出したのは、トヨタ、日産、いすゞ、マツダはじめ大手の自動車産業を中心として、日本経団連会長の御手洗冨士夫氏が会長を務めるキヤノン、大手電機のソニーやシャープなど日本の代表的な大企業が名を連ねていた。このままなら、本号が発行される時点まではもちろん、年明け以後さらにこの動きが広がる見通しは大きい。

 これに対し、その社会的責任のかけらさえも投げ捨てて恥じない大企業の暴挙と無責任を追及し、労働者の権利と生活を守るための反撃が広がりつつある。期間・派遣社員一四〇〇人全員を一二月末に解雇する方針を突然発表したいすゞ目動車では、栃木・神奈川両県で働く非正規社員が労働組合(JMIUいすゞ自動車支部)を結成するとともに、解雇無効の仮処分を地裁に申し立てた。また日産ディーゼルエ業、大分キヤノンでも反撃が始まっている。一方、不十分とはいえ一二月九日、厚生労働省が「非正規切り」防止の通達を出し、「やむをえない事由」がある場合を除いて契約途中での解除は違法(労働契約法違反)になることを明記したのである。

大量解雇に全国紙は

 そこで、こうした一連の状況について全国紙各紙はこの事態をどう論評し、どう報道しただろうか。まず社説についてポイントを見ておこう。

【朝日】《雇用危機──失業者の年越しのために》(一二月七日付)は、「まるで坂を転がるように、働く現場が危うくなってきた」との書き出しで始まる。続いて「製造業では数百人から千人規模の人減らしが相次ぐ。ただごとではない」と指摘、「それだけではなく、正社員からも『退職を迫られた』という声が出始めた。手をこまねいてはおられない」と強調する。さらに「企業はいかに生き残りに必死であろうと、雇用を守るぎりぎりの努力」を要求している。

 一方、同紙は《ソニー人員削減──日本型経営の意地見せよ》(同一一日付)と題する社説で、まず同社が正規社員八千人、非正規労働者八千人以上の計一万六千人以上という最大規模の削減を打ち出したのを受けて「影響力の大きい企業だけに、産業界全体の人員削減を誘発することがないか心配だ。(略)個々の企業の経営判断が合理的であっても、経済界が一斉に人減らしを始めれば、街には失業者があふれる」と主張する。そのうえで、「雇用は経営の『調整弁』ではない」とし、「日本の経営者たち、今こそ意地の見せどころだ」と結んでいる。

 【毎日】《リストラ横行──こんなことでは国が危うい》(同六日付)とのテーマを掲げた社説では、まず「非正規、正規を問わず、雇用調整が本格化しかねない状況だ」と指摘する。そして小泉改革のもとで雇用者総数が増加したことに触れ、「中身は派遣やパートなど非正規労働が中心」であり、「正規労働からの振り替えも進んだ」とし、それが「雇用関係法の柔軟化で可能となった」ことをあげ、「規制改革の行き過ぎを見直す」よう求めている。

 一方、ソニーの大リストラを受けた社説《雇用への北風が吹きすさぶ》(同一一日付)では、「(厳しい経営をめぐる)状況の中で企業を守るには、(略)大規模なリストラを実行しなければならないと、ソニーは判断したのだろう」と述べる。続いて「ネットカフェ難民やホームレスの増大を防ぐため、政府は対策を急ぐべきだ。企業側にも柔軟な対応を求めたい」と強調する。

 【読売】は《新雇用対策──失業の痛み緩和へ早期実施を》(同六日付)との見出しの社説を載せた。同社説ではまず「厚生労働省は、一〇月から来年三月までに、三万人の非正規労働者が、職を失うと見込む。だが、自動車、メーカーだけで今年度の削減計画は一万人を超える」とし、「職を失う人は、厚労省の見立てより多いと見ねばなるまい」と指摘する。そして「消費や住宅投資などの内需回復が最も有効な雇用対策となる。税制、財政を有効に使い、内需の振興を図らねばならない」と結んでいる。

 【産経】はソニーの大幅人員削減問題にしぼった社説(同一一日付)を掲げる。同社説はソニーがリストラを決断したことについて「将来の収益悪化に備えて財務に余力がある間に早めにリストラしようという経営判断であろう」という。そのうえで「企業が不安になれば、消費が減って景気は悪化する。それが倒産や失業を一段と深刻にするという悪循環の流れを企業自らが加速させてしまう」として「企業にはできる限り、雇用維持に努力してもらいたい」と主張する。

 【日経】は《ソニー大型リストラの衝撃》と題する社説(同一〇日付)を掲載し、次のように述べる。

 「ソニーのリストラ案は人員削減のほか、設備投資の三割カットや複数の工場閉鎖など広い範囲にわたり、年間一千億円以上のコスト削減が見込めるという。(略)商品開発の強化を進めて、以前のソニーブランドの輝きを取り戻してほしい。日本の他の大手電機メーカーにとってもソニーの苦境は人ごとではない。『選択と集中』や業界再編、新興市場の開拓を急がなければ、今の円高と世界経済の失速という逆風は乗り切れないであろう」

大企業の横暴、政府の責任は

 大手企業が相次いで非正規労働者をおもな対象にした大量リストラを打ち出していることに対する全国紙の社説を、少し詳しく紹介した。当然ながらこれら大企業による大リストラを評価している論調は見られない。しかし、今回の大リストラ計画の持つ重大な内容、本質について、これに真正面から向き合い、国民、労働者の立場から大企業の責任、政府の犯罪的ともいえる暴挙を衝き、政治が何をなすべきか、その真の解決策を打ち出し、実行を迫っているものが一紙もないのは驚きである。その点を中心に全国紙の社説を分析しておきたい。

 第一は、全国紙の社説が、全体として大リストラに批判的姿勢をとりながら、大企業の横暴、政府の責任に切り込んでいない問題である。例えば、キヤノンは、減益を「非正規切り」の理由にあげているが、〇八年度の利益見通しは五千八百億円という大黒字企業である。さらに内部留保(ため込み金)は三・二兆円もあり、株主配当だけでも七百十五億円にのぼっている。一方、自動車関連企業一〇社の経常利益は、この五年間で約三兆六千億円から五兆七百億円と一・五倍、内部留保も一七兆円から二七兆へと一〇兆円も膨らんでいた。株主配当も〇七年度だけで六千億円に達したのである。

 こうした大企業の巨額な利益は、そもそも派遣社員や期間工などを安い賃金によって大量に雇い、働かせて蓄積したものである。にもかかわらず、経営状況が悪化し、あるいは状況が厳しくなれば、非正規社員をたちまち紙くずのように投げ捨てるやり方は理不尽このうえないものとしかいいようがない。この大企業の罪は重い。しかも今日行われている「派遣切り」、「期間工切り」という事態は、労働法に照らしても違法あるいは違法性の極めて高いものである。

 ところが、全国紙各紙の論調は、これら肝心の問題にふれることを明らかに回避している。

 第二に、もともと大企業がこれら「派遣社員」「期間工」の雇用を増やしたのは、とくに一九九九年に労働者派遣法が原則自由化され、二〇〇四年に製造業にまで派遣労働が解禁となったためである。その点については「朝日」や「毎日」が社説でほんの少しだけふれてはいるものの、それはほとんどふれていないに等しい。政府によって大企業が自分たちの都合のよいように正社員を非正規労働者に置き換えて利益を上げ、必要がなくなれば勝手に解雇する仕組みがつくられたのである。その政府の責任については、いまこそ掘り下げた解明と批判が必要である。そして今回の「派遣切り」、「期間工切り」を政治の責任でやめさせるよう、マスメディアが強く要求していくのが筋であろう。しかし、全国紙の社説にはそういう姿勢はまったく見られない。

 第三に、大企業の社会的責任が根本から欠落している問題についての指摘が希薄な点である。例えば、ソニーの大リストラ計画をめぐる「毎日」の社説のなかで「(厳しい経営をめぐる)状況の中で企業を守るためには、(略)大規模なリストラを実行しなければならないと、ソニーは判断したのだろう」と述べている。これはソニーの経営陣の姿勢に一定の理解を示したものとしか受け止められない。今回リストラ計画を公表した大企業のなかでも、ソニーの削減規模は飛び抜けて大きい。その背景には、労働者の権利と生活への配慮を抜きにして、その犠牲によって、経営環境の困難な現実と将来のもとで、自社の経営を守ろうとする姿勢が浮かび上がってくる。

故盛田氏の警告と「赤旗」の役割

 ソニーといえば、その創立者の一人である盛田昭夫元会長(故人)が『文芸春秋』一九九二年一〇月号に掲載した「『日本的経営』が危ない」と題した論文で、次のように述べ、当時話題を呼んだ。

 「政府の産業政策の影響もあって、各分野で過当競争といわれるような熾烈な競争が行われるようになった(略)即ち、企業の業績が好調で、利益が大幅に上がっても、企業はその利益を一層の競争力向上のため、研究・開発や生産設備等への再投資に振り向け、更には、(略)経営環境の悪化に備えて内部留保に回すようになった(略)こうしたやり方は(略)利益を従業員(や)地域社会などに還元していくという側面が陰に隠れてしまったきらいが(ある)」

 しかしこの盛田元会長の指摘と警告は、産業界からも政府からも、いわば無視されたといえる。まさに一九九〇年代に入って、大企業が利益最優先で、そのためには労働者に犠牲を押し付けるのが当然とする空気が産業界全体に広がり、九〇年代後半からいわゆる労働の規制緩和が進み、労働者派遣法の原則自由化、さらに小泉「改革」のもとで製造業まで派遣労働が原則自由化されるという状況がつくり出されたのである。とくに現在のソニーにおいて、創立者の警告が完全に消し去られたことに、怒りさえ感じる。

 こうした情勢のなかで、「派遣切り」「期間工切り」にたいする労働者の反撃は日を追って強まり、広がっている。全労連などでつくる国民春闘委員会は、一二月一六日、大企業の社会的責任を求め、東京・大手町の日本経団連会館前で抗議を展開した。この日、財界が発表した経営労働委員会報告では「国際競争力の強化」を強調する一方、「非正規切り」について一言もふれていない。

 こうしたたたかいを献身的にささえているのは、日本共産党と「しんぶん赤旗」である。(かなみつ・けい)
(「前衛 09年2月号」日本共産党中央委員会 p153-156)

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