学習通信090305
◎生命と矛盾するもの……

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欧州で原発回帰広がる
伊・スウェーデン凍結・廃棄を撤回

【パリ=古谷茂久】欧州で原子力発電回帰の動きが広がってきた。今年に入りスウェーデンとイタリアが相次ぎ脱原発方針を撤回。原子力発電所の新規着工を二十年以上凍結していた英国が新設再開を昨年打ち出したのに続いた。二酸化炭素(CO2)排出の少ない原発を温暖化対策に利用する狙い。ロシアのガス供給停止に直面した欧州各国では、電力の国内安定供給を確保する思惑もある。

温暖化対策や安定供給

 イタリアは一九八七年に国民投票で原発凍結を決めたが、同国の電力大手ENELはこのほど、国内に四基の原発を新設する計画を明らかにした。フランス電力公社(EDF)と組んで合弁会社を設立、二〇一三年までに着工し二〇年の稼働を目指す。電力の一部を輸入に頼るイタリアでは自国での供給を求める声が高まっており、昨年五月に発足したベルルスコーニ政権は原発を新設する方針に転換した。

 スウェーデン政府も原発を段階的に廃棄することを決めた八〇年の政策を撤回すると二月五日に発表。現在十基稼働している原発は順次新しい炉に置き換える。同国政府は政策転換の理由について「温暖化ガスの排出削減のため」と説明している。

 英国は八七年を最後に原発の新規発注を止めていたが、昨年発表した新原子力政策白書で原発新設再開を打ち出した。今年一月、仏EDFに買収された英電カブリティッシュ・エナジーは、一七年の稼働を目標に英国内に四基の欧州加圧水型炉(EPR)を建設する計画だ。ポーランドでも政府が一月、二〇年までに原発を一〜ニ基新設する計画を発表した。

 環境問題に敏感な欧州では反原発の意見も根強く、ドイツやスペインは脱原発政策を維持している。

 原子力発電によるC02排出量は石炭や石油、天然ガスなど火力発電の約二十〜四十分の一とされる。風力や太陽光など再生可能エネルギーの普及が思うように進まないなかで、原発は温暖化ガス排出削減のための切り札となっている。

 欧州への天然ガス供給国であるロシアが昨年、今年と続けてガス供給を停止。欧州のエネルギー供給基盤の弱点が露見しており、原発回帰は長期的にロシアヘの依存度を下げる狙いもある。ガス供給が途絶えた東欧各国ではスロバキアやブルガリアなどが、運転停止していた旧ソ連時代の旧式原発を再稼働させる方針を打ち出した。
(「日経」20090305)

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米で自然エネルギー参入
オバマ政権新政策
市場の拡大見込む

 日本の大手企業が米国の自然エネルギー市場に相次ぎ参入する。東京電力は太陽光発電所を建設、昭和シェル石油は六月にも太陽電池の販売を始める。風力発電では三菱重工業が米向け設備を国内で増産する。米国ではオバマ政権が環境分野で新たな需要や雇用を創出するグリーン・ニューディール政策を推進、大規模な財政支出で自然エネルギー市場の拡大が見込まれている。政策転換を好機ととらえ、日本企業が強みを持つ環境技術で市場開拓を急ぐ。

東電⇒太陽光発電所を建設
昭和シェル⇒太陽電池販売

 東電子会社のユーラスエナジーホールディングス(東京・港)はカリフォルニア州に出力一千`hの太陽光発電所を建設する。立地の選定を進め、二〇一〇年までに運転を始める。ユーラスは米国ですでに風力発電を手掛けている。太陽光発電への優遇措置が今後拡大すると判断、太陽光と風力の両建てで事業を拡大する。テキサス州など米中部でも太陽光発電事業を展開する方針だ。

 昭シェルは六月までに米国で太陽電池の販売網を整備し、宮崎県に建設中の新工場から輸出する。三洋電機は北米向け組み立て拠点であるメキシコエ場の年産能力を二・五倍の五万`hに増強。カリフォルニア州には販売会社を設立する。

 風力発電機を製造する三菱重工業は米国での需要増を見込み、〇九年度中にも国内の年産能力を三割増の百六十万`hに引き上げる。増産は部品などへの波及が大きく、国内雇用の下支え効果を期待できそうだ。

 十七日成立の米景気対策法では環境・エネルギ一分野への三百八十億j(三兆五千億円)の投資や、民間の投資を促すための減税枠二百億jの設定も決まった。国際エネルギー機関(IEA)によると、米国の総発電量に占める自然エネルギー(水力を除く)の比率は〇六年で三%弱。一五年には自然エネルギー発電量は二・六倍、比率も七%弱に高まる見通し。

 グリーン・ニューディール政策は自然エネルギー以外の分野でも日本企業に恩恵をもたらす可能性が高い。日本電産は米自動車大手から電気自動車用モーターの開発要請が強まっているのを受け、車載モーターの開発技術者を三年内に二干人に倍増する方針。

 日本でも国が太陽光発電向けの補助制度を創設するなど普及への具体策が出てきたが、米国に比べると規模や迅速さで迫力不足は否めない。政府による景気対策の遅れが今後も続き、自然エネルギーヘの家庭や企業の支出が増えなければ、環境分野でも輸出依存が高まる懸念がある。
(「日経」20090221)

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きょうのことば
グリーン・ニューディール

▽…環境分野に集中的に投資し、新たな需要や雇用を生むことで、景気の浮揚をはかる米オバマ政権の政策を指す。大恐慌時にフランクリン・ルーズベルト大統領が大型の公共事業を相次いで打ち出したニューディール政策になぞらえた。

▽…主な内容は政府の財政支出と減税策だ。ブッシュ前大統領が消極的だった温暖化対策を掲げ、政府の経済的な後押しで国内の自然エネルギ一など環境関連市場を育成する。割り高な自然エネルギーの導入には欧州やアジアの各国も優遇策で市場拡大を打ち出している。日本でも環境省が「日本版グリーン・ニューディール構想」の策定に着手している。
(「日経」20090221)

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風力発電3社株Jパワーが取得
 丸紅から

 Jパワー(電源開発)は二日、丸紅から風力発電会社三社の株式を取得したと発表した。三社の発電能力は合計約四万五千`h。Jパワーの国内での風力発電能力は従来比二割増の二十五万六千`hに増える。東京都が一企業の二酸化炭素(CO2)排出に対し規制強化に動くなど今後、自治体などによる環境規制が強まる見通しで、グリーン電力の需要増が見込めると判断した。

 取得したのは、さらきとまない風力(北海道稚内市、一万四千八百五十`h)の四九%、ゆやウインド・パワー(山口県長門市、四千五百`h)の九〇%、南九州ウインドーパワー(鹿児島県南大隅町、二万六千`h)の八〇%の発行済み株式。取得額は明らかにしていない。Jパワーが出資する国内の風力発電所は計十二ヵ所になる。国内での風力発電ビジネスはユーラスエナジーホールディングスに次いで第二位。
(「日経」20090303)

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新エネルギー全面活用
モデル住宅完成

新日石、10年度発売へ
C02実質ゼロ

 新日本石油は三日、新エネルギーなどを活用し二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにするモデル住宅「創エネハウス」を横浜市に完成した。約一年間かけて実証試験を行い、二〇一〇年度に太陽光発電システムや燃料電池などを組み合わせた総合エネルギーシステムとして発売を目指す。

 太陽光パネルや燃料電池のほか、給湯をする太陽熱温水システムなど複数の機器を集中管理し運転する。各部屋の間で空気が循環しやすい設計にし、断熱性の高い建材で外部に熱を逃がさない構造も取り入れた。エネルギー効率を高め、光熱費を抑える。

 CO2排出量は一九九〇年ごろの住宅に比べ半減し、太陽光発電による削減効果を加えると実質的にゼロになる計算という。今後、新日石の社員が実際に生活して経済性や環境性などを調査。将来は価格を二百万〜三百万円程度に下げて販売する考えだ。
(「日経」20090304)

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三菱商事
太陽光発電に参入
欧州企業に34%出資
世界最大事業を運営

 三菱商事は太陽光発電事業に参入する。スペインの新エネルギー会社に三四%出資、世界最大の太陽光発電所を共同運営する。世界では環境や景気対策として太陽光発電の普及策が広がり、中でも欧州では太陽光で発電した電力を電力会社が割高な料金で買い取る助成制度の採用国が増えている。シャープや住友商事も欧州で太陽光発電に乗り出しており、異業種企業の資金や技術が新市場拡大を後押しする好循環が生まれつつある。

異業種の資金・技術
市場拡大を後押し

 三菱商事はスペインの新エネルギー会社アクシオナ(マドリード)と提携し、アクシオナの太陽光発電子会社の株式三四%を月内にも取得する。取得額は数十億円の見込みで、非常勤取締役を派遣することも検討する。

 三菱商事は出資を機に、アクシオナがポルトガルのモーラ地区(リスボン東南約二百`b)に建設した太陽光発電所の運営に参画する。出力は四万五千八百`hと太陽光発電所では世界最大で、日本の一般家庭二万六干世帯分の年間電力需要を賄える。

 総事業費は約二億六千百万ユーロ(約三百二十四億円)で、今年一月に稼働しており、ポルトガルの電力会社に通常の三〜五倍の価格で電力を卸売りする。一般的な石炭火力発電に比べ、年間約八万九干dの二酸化炭素(CO2)削減効果が見込めるという。

 三菱商事は将来の収益源を育てるため、四月一日付で「新エネルギー・環境」事業を既存の営業部門から切り離し、社長直轄組織にする。世界同時不況を背景に新規投資を絞っているが、新エネルギー事業は成長が見込めるとみて、まず太陽光発電への積極投資に踏み切る。

 アクシオナは二〇〇八年の売上高が約百二十六億六千五百万ユーロ(約一兆五千七百億円)で、風力発電や太陽熱発電事業も手がけている。三菱商事は太陽光発電以外での連携も模索する。さらに日本など欧州以外の地域での新エネルギー事業展開も検討する。

 IEA(国際エネルギー機関)によると、世界の太陽光発電の能力は二〇〇六年の七百万`hから二〇二〇年には約十倍の七千二百万`hまで拡大する見通し。ドイツやイタリア、スペインなどは太陽光で発電した電力を通常の電力料金より高く買い取る制度を採用。二〇二〇年のEU(欧州連合)の同発電能力は三千一百万`hと世界の五割弱を占める見込み。

 高い成長性や収益性が見込めるため、日本企業も事業参入。シャープはイタリア最大の電力会社と合弁会社を設立、イタリアを中心に複数の太陽光発電所を共同建設する。住友商事もスペインで大規模な太陽光発電所の建設計画を進めている。
(「日経」20090305)

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 結局は、二つのエネルギー源しかない

 エネルギーは、力によって物体に仕事をすることによって生み出される。さらには、地球には太陽エネルギーが降り注いでいるから、それもエネルギー源になる。そこで、私たちが利用しうるエネルギー源をまとめ直すと以下のようになる。

太陽エネルギー ──太陽光、太陽熱
重カエネルギー ──水力、潮汐力
化学エネルギー ──石油、石炭、バイオマス
核エネルギー  ──原子力、核融合

 石油や石炭も元をただせば、かっての生物の遺骸が地層内で変質してできたものだから「化石エネルギー」と呼ばれているが、広い意味でのバイオマスであり、太陽が作り出したエネルギー源である。先に述べたように、太陽エネルギーによって水が山上に溜められているから、水力発電も太陽エネルギーが起源なのである。そう考えると、結局のところは、太陽エネルギーと核エネルギーが人間の活動を支え得る根源的なエネルギー源ということになる(月と太陽の重力によって発生する潮汐エネルギーも存在するが、それは主要なエネルギー源にはなり得ない)。

つまり、私たちには、エネルギー源としては二つの選択肢しかないのだ。これまでにも述べてきたが、その各々の利用法とエネルギー源としての長短を整理しておこう。

(注)後の節で述べるメタンを主成分とする天然ガスやメタンハイドレート(シャーベット状の天然ガス)の起源として、生物起源以外に、地下のマントルから供給される二酸化炭素が、地中を上昇する過程で還元されて(酸素が取れて水素がくっつく反応で)メタンガスになるという説もある。もしそれが正しければ、地球起源になり、地球が自前で生産する資源と考えられる。

(太陽エネルギー)
 太陽エネルギー利用は、(A)現在降り注いでいる太陽エネルギーをさまざまな工夫で利用する、(B)過去の太陽エネルギーによって形成された「化石エネルギー」(広い意味でのバイオマス)を取り出して利用する、の二方法しかない。

 (A)については、第四章でまとめたように、エネルギー密度が低いことと安定的な供給に問題があり、近未来では主要なエネルギー源とはなりそうにない。とはいえ、太陽光発電・風力発電・バイオマスのいずれも、余分の温室効果ガスを作り出さないから、地球環境にとって推奨されるべきであることは疑いない。クリーン・エネルギーなのである。

 (B)の化石エネルギーには、化学エネルギーが高密度に詰まっており、安定的なエネルギー供給ができるから、エネルギー消費の主体になり得ることは確かである。しかし、化石エネルギーは(広い意味での)バイオマスであり、地上の生物体は炭素を主材料に使っているのだから、通常の燃焼(酸化反応)によってエネルギーを取りだそうとする限り、温室効果ガスである二酸化炭素を余分に排出することは避けられない。つまり、地球環境問題を考えるなら、炭素の燃焼以外の方法を考えねばならない。化石エネルギーを利用しながら、環境に負荷を与えない利用方法を工夫する必要があるのだ。

ある意味で、人類はこれまで安易(安上がり)にエネルギーを取り出す技術しか開発してこなかった。それが二酸化炭素の垂れ流しとなったのだが、より知恵を活かした新しい技術こそ今求められていると言える。その一つの可能性としての天然ガスと「燃料電池」利用については後に述べる。

(核分裂反応)

 人類が手にした原子核(元素)は、自然界に存在するものと人工のものを含めて一一二種類、重さが異なっている同位元素まで勘定に入れると約四〇〇種類になる。最も安定な元素は鉄で、それより軽い元素は互いに融合すればエネルギーが取り出され、それより重い元素は分裂すればエネルギーが放出される。前者が「核融合反応」、後者が「核分裂反応」である。とはいえ、どんな原子核でも都合良く反応を起こすわけではない。

 第三章で述べたように、連鎖的に核分裂反応を起こす元素は、自然界に存在するウラン(重さ二三五)と、重さ二三八のウランを材料にして原子炉内で作られるプルトニウム(重さ二三九と二四一)である。核エネルギーの利用は、まず原子爆弾の開発に始まり、やがて原子力発電となった。核分裂反応によって強い放射線を放出する元素(放射性同位元素)が必然的に作られるから、それが生物に危害を及ぼすことが最大の難点である。

 原子力発電所が事故を起こせば大量の犠牲者が出ることをチェルノブイリ事故で知ったし、プルトニウムは比較的簡単な技術で原爆に転用できると言われており、私たちは危険なものと隣り合わせに生きていることを忘れてはならない。たとえ原子力発電所が安全に運転できても原子炉から出る放射性同位元素(いわゆる「死の灰」)の安全管理を一〇〇〇年以上にわたって続けねばならない。核エネルギーはけっして安全でもクリーンでもなく、生命と矛盾するものなのである。今後原発を減らしこそすれ、増やすべきではない。

 横道に逸れるが、冷戦が終わって核戦争の危機は遠ざかったように見えるが、必ずしも安心できる状況にはないことを強調しておきたい。その一つの理由は、パキスタンが原爆を開発したように、じわじわと原爆保有国が増えていることである。一九四五年にアメリカが原爆を作って以来、ほぼ五年に一つの国の割合で核兵器保有国(または保有予定国)が増え続けており、核拡散は進行しているのだ。偶発的な核戦争、あるいは二国間戦争で核が使われる可能性は、むしろ増えていると言うべきなのである。もう一つの理由は、原子力発電所にミサイルが撃ち込まれたら、死の灰によって核爆発以上の惨状がもたらされることである。原発がある限り、核の危機は継続するのだ。
(池内了著「私のエネルギー論」文春新書 p163-167)

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◎「私たちには、エネルギー源としては二つの選択肢しかないのだ」と。