学習通信090421
◎「政府紙幣」の発行……

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 世界同時不況の影響が深刻化しており、我が国の経済活動も大幅に落ち込んでいる。こうした中、一部に「非常時の措置として政府紙幣を発行すべきだ」という声も出ている。これは二〇〇三年ごろにノーベル賞経学者であるスティッツ教授がデフレ処方せんとして主張した考えを踏襲しものである。

 現在の日本銀行券は、日本銀行の負債として国債などを裏付け資産に発行されている。これに対し政府紙幣は国が発行し、例えば公務員の給料などとして支払われ、市中で流通することになる。自動販売機やATMなどの対応の遅れから流通残高が少ない場合には、国庫事務を扱う日本銀行に発行額の大半が還流して資産サイドに計上され、その分だけ日本銀行券かベースマネーが増える。これは形を変えた財政支払いの日銀引き受けである。

 問題は、この紙幣に関して「国には償還義務のない」点が強調されていることだ。政府紙幣は、無利子の永久国債が日本銀行券の代わりに支払い手段として流通する事態を考えれば理解しやすい。印刷費などを別にすれば発行額がそのまま政府の収入となる。この点、現在の低利国債の持続的な借り換えは政府紙幣化の進行を意味する。その限りでは国債と「正規の」政府紙幣とは事実上の差異がない。

 にもかかわらず、政府紙幣があたかも有力な景気対策手段であるかのように一部で評判になるのは、明確に財政規律を崩すことが狙いではないか。政府紙幣の形態であれば負債とみなされないだけに、当初は目的・規模を限定した発行でも、歳出拡大に迫られた状況が続く中では「打ち出の小づちも」的な性格が重視され、全般的な歳入の補てんへと道が開かれるであろう。

 なぜ中央銀行は政府から独立しており、財務省は財政収支の均衡を重視するのか。その理由の一つは、中央銀行による安易な政府債務の引き受けが、長い目でみた通貨の信認を損なう恐れが極めて大きく、また財政支出には政治面から常に拡大圧力が作用するところにある。政府紙幣の発行は放漫財政に結び付く。

 政府紙幣のアイデアは魅力的にも映るが、停滞が続く経済情勢の下で安易に利用されていくことは想像に難くない。不況対策は将来大きな禍根を残す「奇策」ではなく、むしろ例外的に赤字国債を増発するなどの正常な措置で対処すべきではないか。(真和)
(「日経」20090214)

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日本共産党 知りたい聞きたい

Q&A
「政府紙幣構想」をどう考える?

〈問い〉「政府紙幣構想」が議論されています。日本共産党はどう考えますか。

〈答え〉「政府紙幣」は、日本銀行が発行する日本銀行券(日銀券=通貨)ではなく、政府が独自に発行する紙幣です。にわかに注目されているのは、麻生太郎首相に近い菅義偉・自民党選対副委員長らが選挙目当ての景気対策の「財源確保」策として主張し始めたためです。

 「政府紙幣」は、かつて明治政府が、戊辰戦争で戦費調達目的で発行した「太政官札」があります。しかし、日銀券の発行(1885年)が始まって以降は、発行例はありません。現在は、日銀券やコインが市中から日銀に還流してきた場合、政府が日銀に対価を支払って回収しています。仮に「政府紙幣」が発行されたとしても、日銀が日銀券と「政府紙幣」の交換に応じたり、市中で使われずに残ったりして日銀に還流してきた場合は、日銀が政府に「政府紙幣」の回収を求めることになります。このときの対応には、2つのケースが考えられます。

 第1は、日銀の要請に応じて、政府が「政府紙幣」を回収するケースです。この場合、政府は「政府紙幣」を回収するための財源を用意しなければならなくなります。この財源は結局、国債発行によってまかなうしかないのが現状です。このケースは、「政府紙幣」=事実上の国債発行だといわれています。

 第2は、政府が日銀から引き取らず、日銀に「政府紙幣」を保有させつづけるケースです。この場合、政府は回収のための代金は不要となります。しかし、日銀が、無利息かつ転売不能な政府の債務(事実上の永久無利子国債)を引き受けることになります。また、これは国債の日銀引き受けを禁止している財政法第5条の趣旨に反します。

 「政府紙幣」の発行は、円滑な金融調整が阻害され、通貨価値の安定を損ない、ひいては激しいインフレを招く恐れがあります。仮に激しいインフレが起これば、まじめに働いている方やこつこつ貯蓄してきた方の金融資産が目減りすることになります。「政府紙幣」は多くの問題があります。(藤)
(「赤旗」20090408)

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◎「政府紙幣」は多くの問題があります。