学習通信090526
◎国際交渉を開始するイニシアチブを発揮すること……

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《潮流》

二十一日付本欄を読んだ音楽評論家の植田トシ子さんから。お便りをいただきました。手書きの地図が同封されていました

▼一九五〇年八月六日、広島。米軍弾圧下の平和集会で、デパートの窓から反戦ビラが舞い落ちる……本欄が紹介した峠三吉の詩です。植田さんの地図は、そのとき峠が立っていた場所を示しています

▼ビラは、爆心地に近い福屋デパートから降りました。峠がいたのは、真向かいの建物でした。二十一歳だった植田さんは、日本民主青年同盟の一員として山口から集会にかけつけていた、といいます。以下『占領下の広島』から

▼合図とともに、山口から一緒にきた青年が交差点の真ん中へ飛び出す。植田さんも駆け出し、ビラを空中に向けて力いっぱい投げる。交差点へ走った青年、山根徹雄が開会を宣言しました。「アメリカは五年前、原爆を投下し…」

▼峠の詩仲間の増岡敏和さんは、ビラをまきにデパートヘ。管理人のような人が来る。そ知らぬ顔でビラを置いておいたら、その人は、回収せず窓の外へていねいに掃き落とす……占領軍は集会を禁じ、日本共産党の幹部を首謀者とにらみ事前に拘束していました

▼当時、党に分派がつくられ、峠と増岡さんも派を違えていました。が、いつも行動をともにしました。「分かつ理由がなかった」と増岡さん。集会の指揮をとった渡辺力人さんも、振り返っています。「戦前・戦後一貫して国民の利益を守って不屈にたたかった日本共産党の一員として活動しただけである」
(「赤旗」20090523)

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オバマ米大統領が5日、プラハで行った演説の主要部分は次の通り。

 米国は、核兵器国として、そして核兵器を使ったことがある唯一の核兵器国として、行動する道義的責任がある。米国だけではうまくいかないが、米国は指導的役割を果たすことができる。

 今日、私は核兵器のない世界の平和と安全保障を追求するという米国の約束を、明確に、かつ確信をもって表明する。この目標は、すぐに到達できるものではない。おそらく私が生きている間にはできないだろう。忍耐とねばり強さが必要だ。しかし我々は今、世界は変わることができないと我々に語りかける声を無視しなければならない。

 まず、米国は、核兵器のない世界を目指して具体的な方策を取る。

 冷戦思考に終止符を打つため、米国の安全保障戦略の中での核兵器の役割を減らすとともに、他の国にも同じ行動を取るよう要請する。ただし核兵器が存在する限り、敵を抑止するための、安全で、厳重に管理され、効果的な核戦力を維持する。そしてチェコを含む同盟国に対し、その戦力による防衛を保証する。一方で、米国の核戦力を削減する努力を始める。

 核弾頭と貯蔵核兵器の削減のため、今年ロシアと新たな戦略兵器削減条約を交渉する。メドベージェフ・ロシア大統領と私は、ロンドンでこのプロセスを始め、今年末までに、法的拘束力があり、かつ大胆な新合意を目指す。この合意は、さらなる削減への舞台となるものであり、他のすべての核兵器国の参加を促す。

 核実験の世界規模での禁止のため、私の政権は、直ちにかつ強力に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を目指す。50年以上の協議を経た今、核実験はいよいよ禁止される時だ。

 核兵器に必要な材料を遮断するため、米国は、核兵器用の核分裂性物質の生産を検証可能な方法で禁止する新条約(カットオフ条約)を目指す。核兵器の拡散を本気で止めようとするなら、核兵器級に特化した物質生産に終止符を打つべきだ。

 次に、我々は核不拡散条約(NPT)を強化する。国際的な査察を強化するために(国際原子力機関〈IAEA〉に)さらなる資源と権限が必要だ。規則を破ったり、理由なくNPTから脱退しようとしたりする国に、すぐに実のある措置をとる必要がある。民生用原子力協力のため、国際的な核燃料バンクを含む、新たな枠組みを作り、核拡散の危険を増すことなしに原子力利用ができるようすべきだ。

 今朝我々は、核の脅威に対応するため、より厳しい新たな手法が必要なことを改めて思い起こした。北朝鮮が長距離ミサイルに利用できるロケットの実験を行い、再び規則を破った。

 この挑発は、午後の国連安全保障理事会の場のみならず、核拡散を防ぐという我々の決意の中でも、行動が必要であることを際立たせた。規則は拘束力のあるものでなければならない。違反は罰せられなければならない。言葉は何かを意味しなければならない。世界はこれらの兵器の拡散を防ぐために共に立ち上がらなければならない。今こそ厳しい国際対応をとる時だ。北朝鮮は脅しや違法な兵器によっては、安全と敬意への道は決して開かれないことを理解しなければならない。すべての国々は共に、より強力で世界的な体制を築かなければならない。

 イランはまだ核兵器を完成させていない。イランに対し、私の政権は相互の利益と尊敬に基づく関与を追求し、明快な選択を示す。我々はイランが世界で、政治的、経済的に正当な地位を占めることを望む。我々はイランが査察を条件に原子力エネルギーの平和的利用の権利を認める。あるいは一層の孤立や国際圧力、中東地域での核兵器競争の可能性につながる道を選ぶこともできる。

 はっきりさせよう。イランの核や弾道ミサイルをめぐる活動は、米国だけでなく、イランの近隣諸国や我々の同盟国の現実の脅威だ。チェコとポーランドは、これらのミサイルに対する防衛施設を自国に置くことに同意した。イランの脅威が続く限り、ミサイル防衛(MD)システム配備を進める。脅威が除かれれば、欧州にMDを構築する緊急性は失われるだろう。

 最後に、テロリストが決して核兵器を取得しないよう確保する必要がある。

 これは、世界の安全への最も差し迫った、大変な脅威だ。核兵器を持てば、テロリスト一人で大規模な破壊行為が可能になる。アルカイダは核爆弾を求めていると表明している。我々は、安全に保管されていない核物質が世界各地にあることを知っている。人々を守るためには、我々は目的意識を持って直ちに行動しなければならない。

 今日私は、テロリストなどに狙われうるあらゆる核物質を4年以内に安全な管理体制下に置くため、新たな国際的努力を始めることを発表する。これらの物質を厳重な管理下に置くため、新しい基準を制定し、ロシアとの協力関係を拡大し、また他の国との新たな協力関係も追求する。

 核物質の闇市場をつぶし、移送中の物質を探知・阻止し、財政手段を使ってこの危険な取引を妨害するといった取り組みも強化しなければならない。こういった脅威は継続的なものであるため、大量破壊兵器の拡散防止構想(PSI)や核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアチブ(GI)などを恒久的な国際機関に変えるべきだ。まずそのはじめとして、米国は1年以内に核管理に関する首脳会議を主催する。

 こんなに広範囲な課題を実現できるのか疑問に思う人もいるだろう。各国に違いがあることが避けられない中で、真に国際的な協力が可能か疑う人もいるだろう。核兵器のない世界という話を聴いて、そんな実現できそうもない目標を設けることの意味を疑う人もいるだろう。

 しかし誤ってはならない。我々は、そうした道がどこへ至るかを知っている。国々や人びとがそれぞれの違いによって定義されることを認めてしまうと、お互いの溝は広がっていく。我々が平和を追求しなければ、平和には永遠に手が届かない。協調への呼びかけを否定し、あきらめることは簡単で、そして臆病(おくびょう)なことだ。そうやって戦争が始まる。そうやって人類の進歩が終わる。

 我々の世界には、立ち向かわなければならない暴力と不正義がある。それに対し、我々は分裂によってではなく、自由な国々、自由な人々として共に立ち向かわなければならない。私は、武器に訴えようとする呼びかけが、それを置くよう呼びかけるよりも、人びとの気持ちを沸き立たせることができると知っている。しかしだからこそ、平和と進歩に向けた声は、共に上げられなければならない。

 その声こそが、今なおプラハの通りにこだましているものだ。それは68年の(プラハの春の)亡霊であり、ビロード革命の歓喜の声だ。それこそが一発の銃弾を撃つこともなく核武装した帝国を倒すことに力を貸したチェコの人びとだ。

 人類の運命は我々自身が作る。ここプラハで、よりよい未来を求めることで、我々の過去を称賛しよう。我々の分断に橋をかけ、我々の希望に基づいて建設し、世界を、我々が見いだした時よりも繁栄して平和なものにして去る責任を引き受けよう。共にならば、我々にはできるはずだ。
(「朝日新聞 電子版」20090405)

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オバマ米大統領への書簡の発表にあたって
志位委員長の会見

 日本共産党の志位和夫委員長は三十日、国会内で記者会見し、オバマ米大統領あてに送った書簡の内容について、次のようにのべました。

核兵器廃絶の一点にしぼって
 私は、四月二十八日、米国・オバマ大統領に、核兵器廃絶問題にしぼっての書簡を送りました。その内容を公表します。

 私が、書簡を送ろうと考えたきっかけは、四月五日、オバマ大統領がプラハで、核兵器廃絶を世界によびかけた演説が、きわめて重要だと考えたからです。

 わが党は、唯一の被爆国・日本で、核兵器廃絶をめざして、国民とともにたたかいつづけてきた政党です。そういう政党として、核兵器廃絶という人類的課題の一点にしぼって、私たちの考えと要請を、書簡の形で伝えることにしました。

オバマ大統領の3つの言明に注目
 書簡では、まずオバマ大統領のプラハでの演説について、私がとくに大統領のつぎの三つの言明に注目し、大きな感銘をもって読んだことを伝えました。

 一つは、米国が「核兵器のない世界」――核兵器廃絶を国家目標とすると初めて明示したことです。

 二つは、広島・長崎での核兵器使用が、人類的道義にかかわる問題であることを初めて表明し、その立場から核兵器廃絶にむけた責任について語っていることです。

 三つは、「核兵器のない世界」にむけて、世界の諸国民に協力をよびかけていることです。

 私は、これらのオバマ大統領の表明について、つぎのように表明しました。

 「あなたが米国大統領としての公式の発言で、こうした一連の言明を行われたことは、人類にとっても、私たち被爆国の国民にとっても、歴史的な意義を持つものであり、私はそれを心から歓迎するものです」

核兵器廃絶のための国際交渉の開始を
 そのうえで、私は、大統領が演説のなかで「核兵器のない世界」の実現は「おそらく私が生きているうちには無理だろう」とのべたことについて、これは「同意するわけにはいきません」と率直に書きました。

 国連が創設後、一九四六年に、初めて行った総会決議第一号は、米国、ソ連、フランス、イギリス、中国、カナダの共同提案により、全加盟国の一致した賛成で「原子力兵器などいっさいの大量破壊兵器の廃棄」に取り組むことを決めています。

 しかし、それ以降の六十三年間に、核兵器保有国が、核兵器廃絶を正面からの主題にして交渉に取り組むということは、歴史上誰の手によっても行われていません。交渉はおろか、交渉のよびかけすら行われていないのです。

 交渉のよびかけから交渉の開始、そして合意、さらに実行までには、多くの時間がかかるかもしれません。しかし、それにどれだけの時間がかかるかは、取り組んでみないとわかりません。取り組む前から「生きているうちには無理だろう」というのは早いと思います。いま何よりも重要なことは、核兵器廃絶を正面の主題にした交渉をよびかけ、交渉を開始することであり、それはその意思さえあればすぐにでもとりかかれるはずです。

 そうした立場で私は、書簡で、「いま大統領が、『核兵器のない世界』をめざすイニシアチブを発揮することは、これまで誰も取り組んだことのない前人未踏の挑戦への最初の扉を開くものになるでしょう」とのべ、「私は、大統領に、核兵器廃絶のための国際条約の締結をめざして、国際交渉を開始するイニシアチブを発揮することを、強く要請するものです」とのべました。

 ここが書簡の要請の一番の中心点です。

部分的措置と核兵器廃絶の関係について
 書簡では、続けて、核軍縮にかかわる部分的措置と、核兵器廃絶の関係についての、私たちの見解をのべています。

 オバマ演説では、「核兵器のない世界に向けた具体的措置」として、新しい戦略核兵器削減条約(START)の交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准、兵器用核分裂物質の製造を禁止する条約(カットオフ条約)の追求などをあげています。書簡では、「これらの具体的措置は、核兵器廃絶という目標と一体に取り組まれてこそ、肯定的で積極的意義を持つものとなりうると考えます」とのべました。

 こうのべたのは、これまでもこうした部分的措置にかかわる交渉は行われてきましたが、なお世界には二万発以上の核兵器が存在しているという現実があるからです。その量は全人類を二十回、三十回と「皆殺し」にできるおびただしいものです。

 なぜこうした現実があるか。それは、これまで行われてきた部分的措置にかかわる交渉が、核兵器廃絶という目標ぬきのものだったからです。米ソ、米ロの間で行われた一九七〇年代の戦略兵器制限交渉(SALT)、九〇年代の戦略核兵器削減条約(START)などは、そういう重大な弱点をもっていました。一九六三年に米英ソで締結された部分的核実験停止条約は、地下核実験を合法化し、大規模な核軍拡競争をもたらす引き金になるなど、核軍縮に逆行する重大な結果をもたらしました。

 書簡で、私は、そういう歴史的経過を踏まえて、「私は、核交渉の全経過が、核兵器廃絶という目標ぬきの部分的措置の積み重ねでは、『核兵器のない世界』に到達できないことを証明した、と考えます」とのべました。

 この点で、オバマ演説でのべられている一連の具体的措置が、「核兵器のない世界に向けた具体的措置」と位置づけられていることに、私は、注目しています。

NPT再検討会議で核廃絶への「明確な約束」を
 書簡では、続けて、「核不拡散条約(NPT)の体制をめぐっても、事情は同じ」だとのべました。わが党は、どんな理由であれ核兵器保有国が増えることには反対ですが、NPT条約については前例のない差別性・不平等性をもつものだと批判してきました。

 それでも国際社会がNPT体制を受け入れていることは事実です。それは条約の第六条に明記されているように、核保有国が核廃絶への真剣な努力を行うことを約束したからにほかなりません。そして、この条約にもかかわらず、核保有国が増えつづけているのは、なぜかといえば、「NPTが発効して以後三十九年間、この約束が果たされてこなかったことに最大の原因がある」と、書簡では率直に書きました。

 そして書簡では、「核保有国は、自らが核兵器廃絶に向けた真剣な取り組みを行ってこそ、他の国々に核兵器を持つなと説く、政治的、道義的な説得力を持つことができることを、強調しなければなりません」と指摘しました。

 それに続けて書簡では、もう一点、つぎのように大統領への要請をのべました。

 「二〇一〇年の(NPT)再検討会議において、核保有国によって、核兵器廃絶への『明確な約束』が再確認されることを、私は強く願ってやみません」

 これが書簡の要請の第二の中心点です。

積極的な対応・行動を期待する
 わが党は、日米関係については、現在の支配・従属の関係を、対等・平等の関係にすることを基本路線としており、わが党と米国政府の間には、在日米軍基地の問題、自衛隊の海外派兵の問題など、多くの立場の相違点が存在していますが、あえてこの書簡は、核兵器廃絶という人類的課題の一点にしぼってのものとしました。

 オバマ大統領が、わが党の書簡でのこの提起に対して、積極的な対応・行動を行うことを期待しています。

核兵器廃絶のためにあらゆる努力をつくす
 書簡は、四月二十八日午前、私が、米国大使館を訪問し、ジェームズ・ズムワルト駐日米国臨時代理大使と会い、すでにお渡ししています。

 大使との会談で、私は、書簡の内容について説明し、大使は、書簡に対して謝意をのべ、「大切な書簡です。ホワイトハウスにたしかに届けます」と答えました。大統領のもとに書簡を届ける時間を考慮して、書簡を発表するのは本日この時間(午後二時)としました。

 この書簡の内容は、核保有国ならびに国連安全保障理事国、すべての国連加盟国に対して、駐日大使館をつうじてお伝えしようと考えています。国連事務総長、国連総会議長にもお伝えしたいと考えています。

 わが党は、オバマ大統領のプラハ演説を歓迎する立場から、「核兵器のない世界」という提起が実を結ぶために、野党の立場ですが、可能なあらゆる努力をはかりたいと考えています。

 先日、ベトナム共産党のノン・ドク・マイン書記長が来日したさいに、私は、オバマ発言を歓迎する立場を話し、マイン書記長は「米大統領の発言に注目しています。人類にとって核兵器廃絶に向けての大きな機会になることを願っています」とのべ、核兵器廃絶で協力することで一致しました。

 わが党は、核兵器廃絶を正面からの主題にした国際交渉を開始することを、米ロをはじめとする核保有国、国際社会に、強く働きかけていきます。地球上のあらゆる核兵器を廃絶するという、唯一の被爆国・日本の国民的悲願の実現をめざして、あらゆる力をつくす決意を重ねてのべるものです。


記者団との一問一答
北朝鮮の核問題と、核兵器廃絶の取り組み
 問い オバマ大統領の演説を尻目に、北朝鮮が国連安保理の決議に反発して核実験実施に言及していますが。

 志位 北朝鮮に対しては、その核兵器計画を終わらせるために、あらゆる外交的努力を国際社会がつくすべきだと思います。そうした外交的解決の場として最もふさわしいのは六カ国協議であり、北朝鮮が六カ国協議に復帰し、この協議が再開される、そのために国際社会があげて努力をすることが大切だと考えています。

 同時に、地球的な規模での核兵器廃絶の取り組みに、国際社会が本腰を入れて取り組むことが大切です。とりわけ、核兵器保有国がその仕事に本腰を入れて取り組むことが、私は、北朝鮮の核兵器問題の解決にとっても大きな力になると思います。

 米大統領の側から「核兵器のない世界」というメッセージが発せられたわけですが、核兵器を持っている国が、「われわれも捨てるから、あなたも捨てなさい」といってこそ、もっとも強い立場に立つことができるわけですから、北朝鮮の核問題の解決のうえでも、地球的規模での核兵器廃絶のための国際交渉を、できるだけ早く開始する努力を払うことが、大切だと思います。

 オバマ大統領のプラハでの演説は、北朝鮮のロケット発射の直後だったわけですけれども、北朝鮮への批判をそのなかでのべるとともに、同じ演説のなかで「核兵器のない世界」をよびかけている。ここのところが、非常に重要だと思って読みました。

米大統領の広島・長崎訪問について
 問い 広島では、ぜひオバマ大統領に広島・長崎に来てほしいという話が被爆者から出ていますが、委員長としてはどう受け止めておられますか。

 志位 私も、ぜひオバマ大統領に、広島・長崎を訪問し、被爆者の方々にも会っていただき、被爆の実態をその目で見ていただくこと、そして亡くなられた方への追悼をしていただくことを願っています。

 この書簡は、地球的規模での核兵器廃絶をいかにして進めるかという問題にしぼりましたから、そこまでは言及していませんが、私の思いは被爆者の方々と同じものです。

アメリカへの見方に変化があるのか
 問い これまでアメリカとの関係でいうと共産党は核問題や基地政策をめぐって、厳しく批判してきた経緯があるが、若干のスタンスの変化も含ませているのですか。

 志位 アメリカの側に変化があったということです。私も書簡でのべているように、アメリカ大統領の公式発言として、「核兵器のない世界」、すなわち核兵器廃絶を国家の目標にする、「核兵器を使用したことのある唯一の核兵器保有国として、米国は行動する道義的責任がある」と、ここまで言ったのは、歴史上初めてのことです。これは非常に重要なメッセージだと考えました。

 もちろんわが党は、さきほども言ったように、在日米軍基地の問題、自衛隊の海外派兵の問題など、日米関係の現状については厳しい批判的見地をもっておりますし、この点では米国政府と立場の大きな隔たりがありますが、そういう隔たりがあったとしても、核兵器廃絶を追求するという発言については心から歓迎したい。これが実るように、私たちとしても、野党としてではありますが、できるだけのことはしたいという思いで、書簡を送りました。

 かつてレーガン大統領が、一九八三年に来日したときに、国会で演説をして、「私たちの夢は核兵器が地上からなくなる日が来ることであると申し上げるとき、私は全世界の人々の声を代表しているのである」と、ここまではのべたことがあるのですが、今回のように明確な形で、核兵器廃絶を国家目標にすると世界に宣言したのは、これは重要な一歩の大きな踏み出しです。ですから、私たちはこの内容については歓迎すべきだし、そして積極的な対応を要請するという立場でのぞむべきだと考えて、こういう行動をとったわけです。

これまでの米国大統領への書簡について
 問い これまで日本共産党の委員長が米国大統領に書簡を送った例はありますか。

 志位 これまでの例としては、最初は、一九八三年六月に日本共産党中央委員会として当時のレーガン米大統領に書簡を送りました。当時は核軍拡競争が恐るべき全世界の脅威になるもとで、核兵器廃絶を求める書簡を送りました。米ソ両国首脳あてに送りました。

 二回目は、一九八四年一月に宮本顕治議長(当時)がレーガン米大統領への書簡を送っています。これは国会演説の中でレーガン大統領が「私たちの夢は核兵器が地上からなくなる日が来ることだ」とのべたことを受けて、このときも米ソ両国首脳に核兵器廃絶を求める書簡を送っています。

 三回目は、同年十二月に、宮本議長(当時)が、ソ連共産党チェルネンコ書記長との会談で合意した核兵器廃絶の共同声明に関連して、レーガン大統領に書簡を送っています。

 それから、四回目は、一九八六年に宮本議長(当時)が米ソ両国首脳に送った書簡です。このときはゴルバチョフ(ソ連共産党)書記長の核兵器廃絶提案に関連して、レーガン大統領に、書簡を送っています。

 さらに、五回目は、一九九八年に、これはインド・パキスタンが核実験を行ったさいに、不破哲三委員長(当時)が、核保有諸国首脳あてに書簡を送っています。

 今回の書簡は、さきほど言ったように米国大統領として、歴史上初めての踏み込みをいくつものべた発言を受けてのものですので、私が、アメリカ大使館を、党の代表者としては初めて訪問もし、先方も臨時代理大使に応対していただき、そこで私たちの真意をよく伝えて、実があがるような手だてもとりました。

アメリカと日本共産党との関係について
 問い 日本共産党の議長・委員長が公式に一部分とはいえ、アメリカを評価することは日本共産党史上初めてということですか。

 志位 国際政治の基本問題で、「心から歓迎する」という形で評価したのは、おそらく初めてだと思います。

 大使との話し合いの中でも、私は、日米関係のあり方については、書簡にも書いてあるようにアメリカ政府と大きな相違点があると言いました。在日米軍基地の問題をはじめ、わが党の立場については、つぎの機会に話したいと伝えました。

 大使も、「すべての問題を一日では言い尽くせません」「意見の違いはありますが、意見交換し、お互いの立場を理解していきたいと思います」とのべました。

 アメリカという国と日本共産党という政党が、互いに立場が違う大きな問題がたくさんあっても、それもふくめて話し合って、一致する問題では、その問題についての評価を率直に伝えるし、一致しない問題は大いに意見を言うという当たり前の関係が始まったという点でも、たいへん大事な機会になったと思います。


核兵器廃絶問題でのオバマ米大統領への書簡
2009年4月28日

アメリカ合衆国大統領  バラク・H・オバマ殿

 私は、核兵器による言語を絶する惨害を体験した世界でただ一つの被爆国において、この地球上から核兵器を廃絶することを日本国民とともに求め続けてきた一政党を代表して、この書簡を送るものです。

 4月5日、大統領が、プラハで行った演説を、私は大きな感銘をもって読みました。

 あなたは演説の中で、「米国は核兵器のない、平和で安全な世界を追求していくことを明確に宣言する」とのべ、核兵器の最大の保有国アメリカが、「核兵器のない世界」――核兵器廃絶を国家目標とすることを初めて明示しています。

 また、あなたは演説の中で、「核兵器を使用したことのある唯一の核兵器保有国として、米国は行動する道義的責任がある」とのべ、広島・長崎での核兵器の使用が人類的道義にかかわる問題であったことを、アメリカの大統領として初めて世界に表明するとともに、その立場から核兵器廃絶にむけた責任について語っています。

 さらに、あなたは演説の中で、「協力のよびかけを非難したり、一笑に付すのは簡単だが、臆病な行為でもある。それは戦争のきっかけともなる。そこでは人間の進歩はとまってしまう」とのべ、「核兵器のない世界」にむけて「一緒になって平和と進歩の声を高めなければならない」と、世界の諸国民に協力を呼びかけています。

 あなたが米国大統領としての公式の発言で、こうした一連の言明をおこなわれたことは、人類にとっても、私たち被爆国の国民にとっても、歴史的な意義をもつものであり、私はそれを心から歓迎するものです。

 ただ、大統領が演説の中で、「核兵器のない世界」の実現は「おそらく私が生きているうちには無理だろう」とのべられていることには、私は同意するわけにはいきません。なぜなら、核兵器を保有する諸大国が、核兵器廃絶を共通の目標として、その実現のための交渉にとりくむということは、いまだに誰の手によってもおこなわれておらず、初めての仕事にとりくむときに、どれだけ時間がかかるかを、あらかじめ決めることは、誰にもできないはずだからです。

 国連が創設後、初めておこなった総会決議第1号(1946年1月24日)は、貴国など6カ国の提案、全加盟国の一致した賛成のもとに、国連が「原子力兵器などいっさいの大量破壊兵器の廃棄」にとりくむことを決定しました。しかし、それ以降の63年間に、核兵器を保有する大国間で、核兵器廃絶を正面からの主題としての交渉はもとより、交渉の呼び掛けさえ、行われないできたではありませんか。

 いま大統領が、「核兵器のない世界」をめざすイニシアチブを発揮することは、これまで誰もとりくんだことのない前人未踏の挑戦への最初の扉を開くものになるでしょう。交渉の呼び掛けから交渉の開始まで、そして開始から合意までには、多くの時間が必要とされるかもしれません。それは、あなたのいわれるように「辛抱強さと粘り強さ」が求められる歴史的事業でしょう。しかし、いまその事業を開始する、そのためのイニシアチブを発揮してこそ、プラハでのあなたの演説が、世界平和と進歩のための生きた力をもつことになると、私は考えます。私は、大統領に、核兵器廃絶のための国際条約の締結をめざして、国際交渉を開始するイニシアチブを発揮することを、強く要請するものです。

 大統領は、プラハでの演説の中で、「核兵器のない世界に向けた具体的措置」として、新しい戦略核兵器削減条約の交渉開始、包括的核実験禁止条約の批准、兵器用核分裂物質の製造を禁止する条約の追求などをあげています。私は、これらの具体的措置は、核兵器廃絶という目標と一体に取り組まれてこそ、肯定的で積極的意義をもつものとなりうると考えます。

 これまでにもこうした部分的措置にかかわる交渉は行われてきましたが、私は、核交渉の全経過が、核兵器廃絶という目標ぬきの部分的措置の積み重ねでは、「核兵器のない世界」に到達できないことを証明した、と考えます。実際、世界にはいまも2万個をこえる核兵器が存在しているではありませんか。

 とりわけ、1963年に締結された部分的核実験停止条約が、大気中での核実験は禁止したものの、地下核実験を合法化し、結果的に大規模な核軍拡競争をもたらす引き金となったことは、忘れることはできません。

 核不拡散条約(NPT)の体制をめぐっても、事情は同じです。五つの大国が核兵器を持ちながら、他国にだけ非核保有を義務づけるというこの条約は、歴史に前例のない差別的な条約です。わが党は、どんな理由であれ核兵器を持つ国が増えることにはもとより反対ですが、こうした条約の不平等性・差別性を批判してきました。

 それでもそうした不公平を、国際社会が受け容れたのは、理由があります。それは、核保有国が核兵器廃絶への真剣な努力をおこなうことを約束したからにほかなりません。そして、この条約にもかかわらず、新規の核保有国やそれを計画する国が増え続けているのは、NPTが発効して以後39年間、この約束が果たされてこなかったことに最大の原因があることを、率直に指摘しなければなりません。

 とりわけ、2000年のNPT再検討会議のさいに、「核兵器の全面廃絶に対する核兵器保有国の明確な約束」が同意されたにもかかわらず、2005年の再検討会議では貴国の前政権などによってこの約束が否定されたことは残念なことです。大統領は、プラハでの演説で、「この体制(NPT)が持ちこたえられない地点にまで到達してしまうかもしれない」と表明されましたが、あなたにそうした危険を強く感じさせている根底には、核保有国が過去39年間にとってきたこうした態度があるといわなければなりません。

 この危険から脱出する道は、核保有国が核兵器廃絶への約束に誠実で責任ある態度をとる方向に転換することにあります。核保有国は、自らが核兵器廃絶にむけた真剣なとりくみをおこなってこそ、他の国々に核兵器を持つなと説く、政治的・道義的な説得力を持つことができることを、強調しなければなりません。2010年の再検討会議において、核保有国によって、核兵器廃絶への「明確な約束」が再確認されることを、私は強く願ってやみません。

 わが党は、日米関係については、現在の支配・従属の関係を、対等・平等の関係に転換することを党の基本路線としています。対等・平等のもとでこそ、両国間の真の友情が可能になるというのが、私たちの確信です。この点については、貴国政府の立場とわが党には多くの相違点が存在しますが、この書簡ではあえて核兵器廃絶という人類的課題の一点にしぼって、私たちの考えをお伝えしました。

 核兵器が使われないことを保障する唯一の方法は、「核兵器のない世界」をつくることであり、大統領は、その大目標を世界の前に提起されました。この書簡が、あなたの発言を歓迎する立場から、その発言の精神が世界政治で生きた力を発揮することを願ってのものであることを重ねて表明し、日米両国間の友好と友情が発展することを心から希望して、結びとします。

     2009年4月28日

日本共産党幹部会委員長
衆議院議員 志位 和夫

(「赤旗」20090501)

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志位書簡に米政府から返書
核廃絶への「情熱うれしく思う」
志位氏「非核への世論と運動に力尽くす」

 日本共産党の志位和夫委員長は十九日、国会内で記者会見し、核兵器廃絶にむけたイニシアチブを求め、四月末にオバマ米大統領へ送った書簡に対し、米政府から返書が届いたことを発表しました。会見での冒頭発言は次のとおりです。

真剣な姿勢と熱意示すもの

 私は、四月二十八日に、米国オバマ大統領に、核兵器廃絶へのイニシアチブを要請する書簡を送りましたが、この書簡に対する米国政府の返書が、この間、届けられたので公表します。返書は、オバマ大統領が、グリン・T・デイビス国務次官補(代理)に指示し、次官補が大統領に代わって書いたものとなっています。

 英文の返書と私たちが翻訳した和文をお配りしますが、英文の返書でデイビス次官補の自筆の署名がされている部分については、個人情報を保護するために、発表にあたっては伏せさせていただきます。

 私の大統領あての書簡は、大統領のプラハでの「核兵器のない世界を追求する」という提起を歓迎する立場から、どうすればこの提起が生きて力を発揮するかについての私たちの考えと要請をのべたものでした。

 返書では、私が書簡のなかで、「大統領のプラハ演説についての感想」と、「どうすれば私たちが最良の方法で核兵器のない世界を実現できるかについての考えを伝えた」ことへの感謝が表明され、「この問題にたいするあなたの情熱をうれしく思う」との書簡への評価が書かれています。そして、「思慮に富んだあなたの書簡に重ねてお礼を申し上げる」との言葉で結ばれています。

 こうした返書が、公式に送られてきたことは、オバマ大統領が核兵器廃絶に対して真剣な姿勢と熱意をもってのぞんでいることを示すものであり、私は歓迎したいと思います。

帰すう決めるのは世論と運動
 私が書簡で要請した二つの点――(1)核兵器廃絶を正面からの主題とした国際交渉を開始する(2)来年のNPT(核不拡散条約)再検討会議で、核保有国が自国の核兵器の完全な廃絶を達成することを明確に約束する―という提起に対して、オバマ大統領が今後どういう具体的対応をとるかは、期待をもって見守りたいと思います。

 この点で、五月五日、NPT再検討会議の準備委員会に、オバマ大統領が、メッセージを寄せ、「核兵器のない世界という平和と安全の追求」を改めて訴え、「米国がNPTの約束を果たす」と表明したことは、ブッシュ前政権が核保有国の「約束」を否定したことからの前向きの転換の一歩であり、注目しています。

 核兵器問題の帰すうを決めるのは、世界諸国民の世論と運動にほかなりません。来年のNPT再検討会議にむけて、昨年の原水爆禁止世界大会がよびかけた、「すみやかに核兵器禁止・廃絶条約の交渉を開始し、締結する」ことを求める国際署名がとりくまれていますが、この署名運動をはじめとした核兵器廃絶をめざす草の根の世論と運動が、世界各国で、わけても被爆国・日本でどれだけ広がるかが、決定的に重要です。わが党はそのために全力をつくす決意です。(会見での一問一答)


米国政府の返書全文
 志位委員長の書簡に対する米国政府の返書全文は以下の通りです。

 親愛な志位様

 あなたの四月二十八日付の書簡で、オバマ大統領のプラハ演説についての感想と、どうすれば私たちが最良の方法で核兵器のない世界を実現できるかについての考えを伝えていただきました。大統領は、その書簡に感謝する返書を、大統領に代わってしたためるよう、私に指示しました。

 この問題にたいするあなたの情熱をうれしく思うとともに、私たちは、この目標に向かって具体的な前進をつくりだすために、日本政府との協力を望んでいます。世界の国々が核不拡散条約の強化と、核兵器用の核分裂性物質生産禁止条約交渉の速やかな開始、包括的核実験禁止条約の発効を確約するならば、私たちは認識を変え、核兵器のない世界に向けて新たな機運をつくることができます。

 思慮に富んだあなたの書簡に重ねてお礼を申し上げます。

敬具

(「赤旗」20090520)

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◎「核兵器問題の帰すうを決めるのは、世界諸国民の世論と運動」と。