学習通信090625
◎日本経済の本来あるべき姿に立ち戻ると……

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大機 小機

かぎを握る最終需要

 昨秋から今年の初めまで底抜けしたような生産の落ち込みにより戦後最悪の不況に陥った日本経済だが、足元では明るさが見え始めた。今月2日、与謝野馨財務・金融・経済財政相も生産で見る限り1〜3月が「底打ちの時期だと思う」と発言。景気の遅行指標である失業率はこれからさらに悪化すると覚悟しなければならないにしても、日本経済は最悪期を脱しつつあるかにみえる。株式市場においても過度の悲観が修正され始めた。

 輸出の崩壊に直面した企業の生産が異常に落ち込んだ一因は在庫調整にあった。在庫調整が進めば生産の縮小にはストップがかかる。問題はそこから先、最終需要の動向である。政府はJリカバリーを目指すが、今のところ視界に入るのはL字回復の世界だ。

 ふり返れば1980年代以降、日本経済が不況に陥るたびに回復のきっかけを与えてくれたのはいつも輸出だった。2002年から07年10月まで続いた景気拡張では、きっかけだけでなく約6年の成長全体が輸出頼みだった。それこそが世界同時不況で日本経済が先進国中最も大きな打撃を受けた原因である。

 今年後半から来年にかけて日本経済に回復のきっかけを与えるものは何か。輸出については「モンスター米国経済」が回復すればもちろん日本経済は恩恵を受ける。しかし不安材料には事欠かない。GM騒動の陰に隠れているが、金融システムを取り巻く間題は本当に解決されたのか。いまだ疑念をぬぐい去れない。これは欧州についても当てはまる。国内総生産(GDP)の13%に当たる財政赤字の下で長期金利も上がり始めた。

 さらに、過剰債務を抱える米国の家計は、米国経済のリード役である消費を増大させるのか。中国をはじめアジア経済の潜在成長率は依然として高いが、先進国への輸出依存が強いことが問題だ。

 輸出に過度の期待をせず、日本経済の本来あるべき姿に立ち戻ると、課題として浮かび上がるのはやはり消費の不振だ。多くの識者が指摘する通り、社会保障の将来不安が一因である。日本経済は「将来不安のワナ」から脱出しなければならない。もう一つは高齢化社会と低炭素社会に向けたイノベーションだ。思えば世界経済全体は閉鎖経済であり、そこには最終需要として輸出は存在しない。世界経済全体を引っ張るエンジンはイノベーションをおいて他にないのである。(与次郎)
(「日経」20090606)

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明日への視点
 友寄英隆

自主・自立外交と日本経済
 外需と内需

 世界的な経済危機のなかで、日本企業の発展の基盤が日米関係中心から、アジア中心に、劇的に変わりはじめています。

 それは、大企業の3月期決算にも、くっきりとあらわれています。「企業収益、アジア依存最高日本企業の収益のアジア依存が高まっている。上場企業が2009年3月期に稼いだ営業利益のうち、アジア地域の比率は36%と過去最高で、下半期だけに限れば、日米欧がそろって赤字となる一方、アジアだけが黒字を確保した。世界同時不況の中でアジアの需要は底堅かった」(「日経」6月4日付)

 日本経済は、昨年10〜12月、今年の1〜3月と、実質成長率が2期続けて2けたマイナスになりました。その原因は、内需がもともと停滞していたところへ、世界経済危機の影響で、外需、つまり輸出が大幅に落ち込んだからです。

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 輸出は、昨年全体では、マイナス3・5%でしたが、内訳をみると米国向けがマイナス15・9%にたいし、中国向けはプラスO・9%でした。今年に入ると、米国向けはますます激減し、アジア・中国向けも減ってはいるが、減り方が小さいため、地域別の構成比はますますアジア中心に変わりはじめています。

 日本の輸出は、対米国と対アジアでは、その中身も違います。対米は、最終消費財とか資本財が中心です。しかも、高付加価値の製品、自動車でいえばトヨタの高級車とか、キヤノンの高級カメラなど値段の高いものでした。これにたいして、アジア・中国向け輸出は、部品などの中間財が7割を占めています。

 今回の経済危機では、アメリカの輸入が大幅に減ったので、トヨタやキヤノンなど高付加価値製品の対米輸出ががくんと減りました。アジア・中国向けの中間財、部品などは、低付加価値の商品を中国などで組みたてて、やはりアメリカなどへ輸出していたので、これも対米輸出が激減しました。しかし、中国では、経済危機がおこったときに、まっさきに内需振興のために4兆元、日本円で57兆円を決めました。

 つまり、今回の経済危機によって、アジア・中国からの対米輸出も減ったが、アジア・中国では、対米輸出の減少を、内需に振り替えはじめたために、かえってアジア全体の再生産の内部循環が強まってきているわけです。

 対米国市場の場合は、たとえばトヨタとGMのような多国籍企業同士の競争が中心でした。対アジアの場合は、少し複雑です。部品とかの中間財は、巨大企業だけでなく中堅企業、中小企業が多いからです。

 アジア向け輸出が増えると、日本の中堅企業・中小企業とアジア企業の競争が激化します。そこでは、共存共栄のルールが重要です。国内の「ルールある経済社会」に対応する、民主的な国際的ルールを作る経済外交が必要になります。

 EU(欧州連合)では、それを実現してきました。ルールあるヨーロッパ共同市場を広げながら、国内ではルールある雇用、福祉を大事にする「社会的市場経済」を発展させてきました。国内のルール作りと国際的なルール作りとは連動しているわけです。

 今回の経済危機をつうじて、米国市場は、しばらく縮小再生産せざるをえないでしょう。これにたいしてアジアでは、これからも経済成長を続けるために、内部的な経済循環を強める方向で発展しはじめているかのように見えます。

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 日本は、これまでの外需依存の経済成長から内需重視、国民の暮らし重視の成長への根本的転換を迫られています。

 日本も、アジア諸国がすすめているように、内需重視への転換をすすめながら、アジアの経済発展の輪のなかに入っていくのか。それとも、いままでのように、「日米軍事同盟絶対」路線、米国市場依存を続けるのか。答えは明らかです。

 21世紀に日本がアジアの一員として経済的に発展していくためには、どうしてもいま、国内では内需重視への根本的転換と「ルールある経済社会」の実現、対外的には「自主・自立の平和外交」の路線を、真剣に考えるべき時代にきています。これは日本経済の21世紀の戦略路線としても歴史の発展法則です。(論説委員)
(「赤旗」20090623)

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◎「国内の「ルールある経済社会」に対応する、民主的な国際的ルールを作る経済外交が必要」と。